証券コード |
マザーズ:4584 |
時価総額 |
16,737 百万円 |
業種 |
医薬品業 |
本項では投資の視点を簡単にまとめました。キッズウェル・バイオの特徴は、バイオ新薬開発に加えて、CSC(心臓内幹細胞)とSHED(乳⻭⻭髄幹細胞)を用いた再生医療に重点を置いていることです。バイオシミラーのパイオニアであり、日本のバイオサイエンス他社に先んじて、10億円超の売上を継続して稼いでいます。また、同社はノーリツ鋼機(TYO7744)の持分法適用会社となっています。同社のビジョンは子供たちを助けることであり、再生医療により、難治性の小児疾患の治療を目指しています。事業内容や経営計画については公開資料を参照してください。最新の決算説明会資料、2021年2月発表の「5カ年中期経営計画」がおすすめです。いずれも同社のウェブサイトで公開されています。
Investment view
キッズウェル・バイオの株価は長年低迷してきましたが、ようやく興味深い転換期を迎えているようです。TSRは、2021年6月初めからの急激な株価上昇のおかげで、過去6か月間でTOPIXを上回り、良好な成績を達成しました。過去3か月間では、バイオテクノロジー32銘柄中で6位にランクされました。ここにきてようやく中長期の業績のロードマップが見えてきました。株価も投資家の期待に率直に反応し始めたようです。当面のニュースフローは株価ポジティブではないかと予想されます。2025年度(2026年3月期)にかけては、医薬品パイプラインの進捗とパートナリングの可能性を中心として、豊富なニュースフローが予想されます。これまで、新薬開発の見通しが不透明である一方で、毎年の赤字、巨額の特別損失、1株あたり資産価値の著しい希薄化進行が株価を圧迫してきました。BPSがないがしろにされてきた印象は否めず、株主には大変な苦痛でした。これらの要因は黒字化が叶えば解消すると考えられます。株価は、株主の忠誠が報われる段階に踏み込んでいる可能性があります。
Total Shareholder Return
1M | 3M | 6M | YTD | 1Y | 3Y | 5Y | 10Y | 20Y | IPO (Nov 2012) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4584 | 24.5 | 5.7 | 13.5 | 11.5 | -32.7 | -12.8 | -4.1 | -4.1 | -4.1 | -4.1 |
TOPIX | 2.3 | -2.3 | 10.0 | 8.9 | 25.5 | 6.2 | 8.0 | 8.0 | 8.0 | 8.0 |
決算期 | 売上高 (百万円) | EBITDA (百万円) | EPS (円) | PER (CE)(倍) | PBR (倍) | ROE (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
3/18 | 1,060 | 0 | -47 | 0.0 | 8.7 | 0.0 |
3/19 | 1,022 | 0 | -42 | 0.0 | 6.7 | 0.0 |
3/20 | 1,078 | 0 | -265 | 0.0 | 10.1 | 0.0 |
3/21 | 997 | 0 | -34 | 0.0 | 10.0 | 0.0 |
中長期の株価に関して
驚くほど高い投資収益率を目指して、バイオサイエンス株を辛抱強く保有する投資家の関心は画期的な新薬開発にあり、バイオシミラーにはそこまでの関心はないでしょう。同社によれば、バイオシミラーの売上高は1、2年で着実に伸び、一方で研究開発費と固定費は平準化します。重要なのはこれにより、新薬開発を支える健全な財務サイクルが出来上がると予想されることです。つまり、バイオシミラーと新薬開発は有機的に関連しています。経営陣は2023年3月期 (2022年度)の営業利益黒字化に自信を持っています。これは主に、4番目のバイオシミラーの製造プロセスへの投資が完了することで、15年以上にわたるバイオシミラー開発への多額の投資が一段落し、研究開発費が大きく低減するためです。自社の生むキャッシュフローで研究開発費と固定費を賄えるようになりますと、上述した、株価を阻んでいた要因が解消される可能性があります。
2026年3月期 (2025年度)に営業利益10億円をあげる同社の計画の実現性が高まる過程では、株価も反応するかもしれません。投資家が自信を持つためには、バイオシミラーの着実な収益貢献、固定費と研究開発費の安定化、新薬提携の可能性を確認する必要があります。同社は、2031年3月期までにSHEDによって3つの新しい再生バイオ医薬品を発売したいとしています。とても意欲的な目標であり、その可能性を判断するにはまだ情報不足です。この点は今後、経営陣と議論を重ねていくべき点の一つです。カイオム(4583)の投資見解でも述べましたように、医薬品の研究開発の成果に対する期待は、開発会社、ライセンス供与会社、投資家の間で一致せず、結果は必ずしも投資家の期待と一致するとは限りません。また、キッズウェル・バイオの株式を大量に保有する大株主二社の投資動向は予測困難で、リスクとみなすべきでしょう。
株価のプレミアムに関して
株価上昇の背後には、なんらかの需給要因があったのかもしれません。しかし、事業のファンダメンタルズだけを考慮して、どのような投資家の期待が株価プレミアムを形成したのかと考えますと、次のようになります。1)会社が新経営計画で示した2023年3月期の黒字達成予想には現実味がある、2)2026年3月期に向けては、営業利益10億円の達成は定かではないが、新薬のマイルストーン収入など新たな収益源が追加される可能性がある、3)フェーズ3臨床試験にあるJMR-001の開発は順調で、遠からずパートナリングに関するニュースがあるかもしれない、という諸点です。
医薬品開発の見通しは明確になってきましたが、投資家は、今後、経営陣が少数株主の利益に十分に配慮するかどうか、楽観的になれずにいる可能性があります。経営陣は2020年3月期には60億円近くの特別損失を計上し、また過去5年間の平均年間株式希薄化20%を許しました。その結果、BPSは大幅に減少しました。2016年度のBPSは182円でしたが、現在は50円強です。株式を何年も保有してきた、多くの忠実な株主にとって大きな苦痛だったに違いありません。
Key Stats
2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
BPS (Y) | 108 | 26 | 33 | 182 | 134 | 133 | 52 | 50 |
PBR x | 4.8 | 23.6 | 22.6 | 3.8 | 8.7 | 6.7 | 10.1 | 10.0 |
Market Cap (Y-mn) | 4,995 | 5,889 | 8,653 | 13,347 | 25,881 | 17,221 | 14,487 | 14,930 |
No of Shr | 9,536,420 | 9,576,420 | 11,541,768 | 19,135,846 | 19,135,846 | 20,342,446 | 27,646,894 | 29,622,755 |
大株主の今後の動向も不確実要因です。ノーリツ鋼機はキッズウェル・バイオ株式の31.97%を所有しており、簿価は1株当たり500円程度と推定されます。ノーリツ鋼機は今では創薬事業を非継続事業としており、主要な潜在的売り手としてみなすべきでしょう。米国のハイツキャピタルは近年、第三者割り当てによる資金調達に応じてきました。その結果、2021年6月30日時点では、全株式の8.7%に相当する潜在株式を含めて、キッズウェル・バイオ の9.0%を所有しています。これらの二社は投資収益を狙いとして株式を大量保有しています。彼らがキッズウェル・バイオの経営に興味を持っている兆候は見られませんが、投資活動を予測することは困難です。。
以下に簡単に、株価に関連する期待と懸念を整理しておきます。
Bull
Bear
適正株価の捉え方
バイオテクノロジー株式の説得力ある公正価格を算出することは至難の業です。一方で、いろいろな考察ができる面白味のある業種でもあります。なかでもDCFモデルは、強力な手法の1つであり、パイプラインの主要な医薬品の詳細な予測に基づいています。ここでは単純で、洗練もされていない試みをあえて紹介するに留め、洗練された計算はいずれ提示できればと考えています。
バイオテクノロジーサブセクター33銘柄のうち、時価総額が1000億円以下の銘柄は 28 銘柄で、平均時価総額330億円、PBRは8.6倍で取引されています。一見して、時価総額と PBR にはある程度の相関関係があります。この特殊な産業では、投資家は高い時価総額で楽観的である傾向があり、これらの株式に高いPBRを容認します。これは自動車セクターと正反対です。産業ライフサイクルではバイオテクノロジーが発展段階だが、自動車は成熟してしまった、と捉えられているからかもしれません。株価が、BPSとそれに上乗せされるPBRで形成されることを考えますと、投資家はBPSの成長に確固たる勢いをもたらす企業の株式により多くのプレミアムを与えるかと思われます。一度成功すれば、バイオテクノロジー事業は高い資本利益率で長期的に利益を維持するサイクルではバイオテクノロジーが発展段階だが、自動車は成熟してしまった、と、とることができるとの観測がその背景と考えられます。
現在、キッズウェル・バイオの株価は600円前後です。株価が1200円に到達した時に、サブセクター平均のPBR8.6倍で評価されるとしますと、インプライド BPS は140円になります。現在のBPSは約50円なので、これは約3倍になります。このBPSの増分を税引き後最終利益に換算しますと、27億円の利益になります。キッズウェル・バイオがそれだけ稼ぐのに何年かかるのでしょうか?逆に、現在の株価がサブセクター平均PBRの8.6倍で評価されるなら適正価格は430円、株価はサブセクターより40%高いことを示しています。
投資家アクティビティ
2021年7月の社名変更前にジーンテクノサイエンスであったキッズウェル・バイオは、もともとはノーリツ鋼機のヘルスケア部門の子会社でした。ノーリツ鋼機は創薬事業への興味を失い、非継続事業と分類していますが、キッズウェル・バイオを持分法適用会社として連結決算に取り込んでいます。経営には手を貸しておらず、バイオサイエンスに関してアドバイスできる人材も在籍していないようです。キッズウェル・バイオの経営陣は業績を定期的に報告していますが、ノーリツ鋼機は純粋に投資収益を狙う株主となっている模様です。
Heights Capital Management, Inc.は2021年5月に株式を1%売却した後も、潜在株式を含めればキッズウェル・バイオの発行済株式の9.0%を保有している大株主です。これまで傘下のCVI Investments, Inc を通じてキッズウェル・バイオの第三者割当を引き受けてきました。Heights Capital Management,Inc.は米国のSusquehanna International Group に属しています。Susquehannaは米国に本社を置く非公開会社であり、米国、ヨーロッパ、アジアおよび世界の他のさまざまな金融市場に投資している投資家のグループです。その株式投資ポートフォリオからは、かなり長期的な投資家であることがうかがえます。国際的に著名なポーカープレイヤーのWillam Chen氏を裁定トレードの責任者として雇用しているようです。
キッズウェル・バイオの経営陣は定期的にハイツの投資担当者と面談し、ビジネスについて説明しています。キッズウェル・バイオは、ハイツは投資先と良好な関係を構築しながら投資先を育成していく投資家である、と理解しています。投資先の経営にプレッシャーをかけず、全株式の10%以上は保有しないという方針を確認しているそうで、実際、その原則に沿ったとみられる株式の売却もありました。しかしながらハイツは、オウケイウェイヴ(3808)やスリー・ディー・マトリックス(7777)など、他のいくつかの日本企業で10%以上の巨額の株式を所有しており、その投資原則は明確ではありません。
IR 活動に関して
キッズウェル・バイオの IR 活動は比較的活発で、年間30社から40社の個別面談を行っています。最近では外国人投資家との接触も増えています。今後、医薬品パイプラインが発展する一方で、2023年3月期および2026年3月期に収益を上げる可能性が高まる可能性があり、経営陣が積極的に投資家と情報を共有し続け、建設的な議論を進めるならば、株価にもプラスでしょう。
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