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Omega Investment株式会社

ナノキャリア

証券コード
マザーズ:4571
時価総額
21,563 百万円
業種
医薬品業
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4571_OIV210924_JN
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Conclusion

同社の創薬パイプラインはここ数年の間に大きく変容しています。再構築した戦略プラットフォームを新経営陣がしっかり定着させた結果です。本年に入って同社株式がバイオセクターをアウトパフォームしているのは、この点が投資家に評価されたと捉えるべきでしょう。パイプラインの目覚ましい充実で、DCFによる企業価値も同様に引き上がるはずです。にもかかわらず、株価の動きはさほどでもない、という状況は直ちには理解できません。

Total Shareholder Return

1M3M6MYTD1Y3Y5Y10YIPO
(Mar 2008)
45716.2-1.6-3.5-2.5-21.8-14.2-19.93.42.6
TOPIX7.07.28.417.230.69.112.313.011.8
Returns over 1 years are annualised
Made by Omega Investment by various materials

Investment view

同社の戦略は、後期臨床開発品の早期収益化、核酸創薬開発、M&Aと提携、に集約されます。企業価値にとって意義ある経営陣の成果は、後期臨床開発2品目のラインセンス導入と既存品目の開発優先順位の再検討、3つの核酸医薬品候補のパイプラインへの追加です。パイプライン充実はビジネスの現在価値を引き上げます。加えて、拡充されたパイプラインから発せられるニュースフローは今まで以上になり、株主にとって面白みを増すと考えられます。

具体的には経営陣は、後期臨床開発 3 品目への集中で、ライセンスアウトや承認申請を加速化させ、2024 年 3 月期までにこれらの収益化を目指しています。また、次世代モダリティ(創薬技術の方法・手段)と目される核酸医薬品のパイプラインを一気に構築しました。これは、2020年9月のアキュルナ株式会社との経営統合でナノDDS技術による3品目を一挙に取り込むことで実現しました。核酸医薬品の世界市場は急速に拡大しつつあります。2020年5月には、日本新薬が国産初の核酸医薬「ビルトラルセン」を上市して注目を集めました。

1996年の同社の設立以来、長年が経過していますが、同社の収入は微々たるものに止まっており、赤字は20期に及んでいます。現在の収入は、開発マイルストーン、化粧品やその材料供給、仕入れ医療機器の販売によるものです。一方で、後期開発品収益化の現実味に投資家が自信をもてるような情報はまだ揃っていません。核酸医薬品市場は急拡大しつありますが、当社の開発品は何れも早期段階にあり、どうなるかは漠然としています。 研究開発費と人件費を大半とする固定費は膨大で、赤字は恒常的です。このため、新株予約権と第三者割り当てに頼る資金調達がほぼ毎年繰り返され、株式価値の希薄化が進んでいます。2013年のグローバルオファリングでは86億円を調達し、BPSは337円に充実しましたが、2021年3月期末では106円でした。これらを織り込んで、同社株式は2008年のIPO 以来、TOPIXをアンダーパフォームしています。赤字のバイオ株式の成績不振にはなんの不思議もありませんが、同社株式は長期間ではバイオセクターもアンダーパフォームしています。

しかしながら、適正株価をDCFで考えるのでしたら、パイプラインの充実はキャッシュフローの期待値をあげることには違いありません。後期開発品は3年後の収益化を狙っていますからターミナルバリューだけではなく、普通アナリストが手計算する、より確度の高い最初の5年間のキャッシュフローの予想値も改善します。パイプラインの候補薬の成功の確度は見当がつきませんし、今後もファイナンスでBPSはさらに希薄化されるでしょう。とはいえ、パイプラインが様変わりしているのに株価はさほど動いていない、という状況は、同社株式は見落とされている、と見做すべきではないかと感じます。

一般的に1/10から1/20といわれるパイプライン薬剤の成功確率を考えれば、臨床試験に5品目の同社パイプラインは数量不足で、他のバイオサイエンス上場企業にも見劣りします。これが同社の事業価値算定を難しくしていると思われます。しかしながら、 経営陣はM&Aや提携、オープンイノベーションに懸命ですから、この点は早期に補われるかもしれず、むしろ楽しみな余地とも考えられます。また、過去の苦い経験で投資家のエモーショナルバリアは大きく、フェーズ3の2品目の成功も疑っているのかもしれません。2016年7月に、同社が日本化薬(4272)に初期段階でライセンスアウトした高ミセル化抗癌剤「NK-105」が第III相試験で主要評価項⽬を達成できず承認が得られず、株価は下落しました。パイプラインがさらに拡大し、投資家が主要な候補薬の年商や競合品開発状況に関して、ある程度の見解がもてるようになれば、株価も合理的に形成されていくだろうと考えます。

決算期売上高
(売上高)
EBIT
(百万円)
EPS
(円)
PER
(倍)
PBR
(倍)
ROE
(%)
3/18259-1,802-1250.07.20.0
3/19497-1,106-370.03.60.0
3/20553-1,303-300.01.80.0
3/21313-1,800-410.02.90.0

Price, Ratios

2015

2016

2017

2018

2019

2020

2021

5Yr Avg (%)

Price Change

-29.1

-15.0

-27.4

-49.5

-14.4

13.3

-2.2

-18.6

vs TOPIX (%)

-39.0

-13.2

-47.1

-31.7

-29.6

8.4

-17.9

-22.6

vs Industry (%)

-64.5

-10.5

-41.0

-55.2

-41.4

-8.7

7.2

-31.4

Div Yield (%)

3/2016

3/2017

3/2018

3/2019

3/2020

3/2021

3/2022CE

5Yr CAGR (%)

Sales (Y-mn)

243

219

259

497

553

313

200

5.2

EBITDA

-2,053

-2,690

-5,324

-1,792

-1,104

-1,300

EBIT

-2,083

-2,712

-5,351

-1,802

-1,106

-1,303

-1,800

Net Inc

-2,537

-2,676

-5,417

-1,809

-2,010

-2,836

-1,800

EPS (Dil) (Y)

-59.5

-62.1

-125.4

-39.1

-32.7

-41.5

-25.8

Divs PS (Y)

0.00

0.00

0.00

0.00

0.00

0.00

0.00

Shs Out (Dil)

43

43

43

46

62

68

9.9

BPS

285

233

108

119

133

107

-17.7

Cash&ST Inv (Y-mn)

13,760

11,769

6,408

6,567

7,471

6,402

-14.2

Assets

15,386

12,939

7,627

8,568

8,945

7,821

-12.7

Working Capital

14,085

12,073

6,391

6,808

7,772

6,637

-14.0

LT Debt

3,000

2,475

2,475

2,475

0

0

Net OP CF

-1,971

-2,527

-4,928

-2,037

-1,139

-1,247

Capex

-89

-177

-64

-7

-0

0

FCF

-2,048

-2,702

-4,988

-2,043

-1,139

-1,274

3/2016

3/2017

3/2018

3/2019

3/2020

3/2021

3/2022CE

5Yr Avg (%)

Gross Margin %

86.0

71.8

73.8

83.9

85.9

87.7

80.6

EBITDA Margin %

-843.9

-1,229.9

-2,054.7

-360.8

-199.6

-414.9

-852.0

EBIT Margin %

-856.0

-1,240.1

-2,065.4

-362.9

-200.0

-415.9

-900

-856.8

Net Margin %

-1,042.8

-1,223.6

-2,090.6

-364.1

-363.4

-905.1

-900

-989.4

ROA %

-16.9

-18.9

-52.7

-22.3

-23.0

-33.8

-30.1

ROE %

-19.1

-24.1

-73.6

-34.3

-27.4

-34.9

-38.9

Asset Turnover

0.0

0.0

0.0

0.1

0.1

0.0

0.0

Assets/Equity

1.3

1.3

1.6

1.5

1.0

1.0

1.3

Current Ratio

61.7

33.7

15.2

39.2

53.4

26.0

33.5

Quick Ratio

61.1

32.9

14.8

39.0

52.9

25.5

33.0

Made by Omega Investment by various materials.     CE: Company guidance
Current Ratio = Current Assets / Current Liabilities
Quick Ratio = (Cash&ST Inv + Accounts Receivables) / Current Liabilities

Business

同社はナノテクノロジーを応用した自社独自のDDS(Drug Delivery System:薬物送達システム)技術を活用した抗がん剤開発を行う一方、新たなモダリティ技術と期待される核酸医薬の開発にも進出している創薬ベンチャーです。現在、臨床試験段階のパイプラインに、VB- 111 (卵巣がん)、ENT103 (中耳炎)、NC- 6004 (頭頸部がん)、NC- 6300 (軟部肉腫)、核酸医薬NC- 6100 (乳がん)の5つがあります。前臨床段階には核酸医薬の、TUG1(膠芽腫)、RUNX1(変形性膝関節症)の2品目があります。同社は医薬品開発の他に、化粧品の共同開発、原材料供給、育毛剤の開発販売、医療機器の仕入れ販売を行っています。

同社は東京大学の片岡一則教授、東京女子医科大学の岡野光夫教授らが研究してきたミセル化ナノ粒子技術による医薬品の開発を目的に1996 年に設立されました。片岡教授は現在、外部取締役を勤め、2019年12月に設立されたサイエンティフィックアドバイザリーボードの委員長として開発と経営に参画しており、317,350株(発行済株式数の0.45%)を保有する第14位の株主でもあります。

同社は抗がん剤開発を、自社のDDS技術を活用して進めています。同社のDDSは、ナノカプセルで薬剤を病変部に運び、そこで集中的に薬剤を放出する仕組みです。この仕組みを可能にするコア技術は同社のミセル化ナノ粒子技術です。⽣体適合性を持つポリエチレングリコールやポリアミノ酸などでナノサイズのカプセルを作成し、その内側に様々な物質を閉じ込めるというテクノロジーです。様々なブロックコポリマーを改変してミセル化ナノ粒子を製造し、有機・無機物質をミセル粒子に封入します。同社はこの技術を特許等の知的財産として所有しています。治療効果の向上が期待され、さらに副作用を低減させるとみられるため、同社はこの技術を活用した抗がん剤開発を進めています。

同社は2020年9月のアキュルナ株式会社吸収合併により核酸医薬の開発に進出し、自社DDS技術の再生医療分野への活用に着手しています。アキュルナ社は、核酸医薬品のナノDDS技術を供給するために2015年12月に設立された創薬ベンチャー企業です。

核酸医薬品はヒトの細胞核に存在するデオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)の構成成分であるヌクレオチドとその誘導体を基本骨格とする医薬品です。核酸医薬の最大の特徴は、低分子医薬や抗体医薬では標的にできなかった細胞内分子を広く標的にできることです。このため、低分子医薬品、抗体医薬品に続く第3世代の医薬品と目されており、従来の医薬品では治療が難しかった疾患を根治する革新的な次世代治療薬になると期待されています。また、核酸医薬品は、低分子医薬品と同様に化学合成が可能なため、抗体医薬品に比べて製造費は安価です。

核酸医薬は疎水性が高く細胞内に取り込まれにくい上、体内の酵素で分解されやすいですので、標的まで薬を運ぶDDS技術や核酸構造の安定化の技術が重要となります。ナノキャリアのDDS技術を活用すれば血中安定性が向上し、核酸医薬品の有効性を高めることができ、患者に負担の少ない治療を実現できると予想されています。

代表的な核酸医薬品にはアンチセンスオリゴ(ASO)、siRNA、アプタマー、デコイ、mRNAがありますが、このうち同社は、ASO、siRNA、mRNAを用いた核酸DDS製剤の研究を行っています。

2013年までに日米欧で承認された核酸医薬品は3品目でしたが、2016年からの5年間で9品目が承認され、開発段階にある品目も100以上となり注目を集めています。2020年には筋ジストロフィーを治療する国産初の核酸医薬「ビルトラルセン」が日本新薬から上市されました。核酸医薬品の市場規模は2015年までは小さかったのですが、2016年のスピンラザの登場で一気に拡大しました。市場調査会社からは、市場は2019年以降に年率20%近く成長し、2025年に7000億円、2030 年には2兆円を超えるとの予測も出ています。

核酸とはヒトの体を形成する約37兆個の細胞の中心にある細胞核に存在する、酸性の物質です。核酸にはデオキシリボ核酸(DNA) とリボ核酸(RNA)の2つがあります。DNAは、遺伝子の本体として機能し、RNAはDNAの情報に基づいてタンパク質を合成します。

Bull

  • インライセンスによる後期開発品と吸収合併による核酸医薬品のパイプライン追加は企業価値に大きなプラスである。同社は後期開発品では、VB-111、ENT103 の承認取得・販売及び NC-6004 のライセンスにより収益化を2024年3月期までに収益化を目指している。核酸医薬品のパイプラインの成功があれば、同社の収益は大きく動く可能性がある。

  • 今後ニュースフローは面白みを増すであろう。注目を集めている核酸医薬品開発と後期開発段階に3品目へと拡充したパイプラインから発せられるニュースフローのボリュームは増し、株価も面白い動きをみせ、より多くのスパイクが見られるようになるであろう。実際に、2021年8月末から相次いだ、後期開発品であるNC-6004, VB-111の開発進捗に関するニュースは株価を動かし、出来高もかなりのボリュームであった。一部の投資家には利益確定の良い機会となったであろう。

  • いずれ遠からず、経営陣が収益ロードマップを発表する可能性。そのタイミングは、後期開発品のいずれかの品目のライセンスアウトもしくは承認申請が決まる段階ではないかとみる。ただしこれは、他社のこれまでの傾向を振り返った上での直感的な推測である。

  • M&Aや提携を積極的に推進する戦略は現実に成果をあげ、経営陣の力は評価できる。また大半の取締役は株主でもある。2019年10月に社長に就任した松山氏は、三菱商事(8058) を経てさまざまな企業で活躍したのち、2015年6月に同社の取締役CFO兼社長室長に就任している。取締役研究開発本部長の秋永氏は協和キリン(4151) で長らく研究開発に携わり、アキュルナ社の社長を経て、アキュルナ社合併により2020年9月にナノキャリア取締役に就任している。松山氏は17,700株、秋山氏は29,250株を保有している。取締役の持株は0.99%だが、役員11人のうち8人が株主となっており、役員の持株比率は高い。

  • サイエンティフィック・アドバイザリーボード創設。同社は、新規パイプラインの拡充等は、当社単独で行うことはせず、オープンイノベーションで行うこととしている。サイエンティフィック・アドバイザリーボードは、メンバーのグローバルなネットワークや知見を活用して取締役会への提言、事業運営への提言を行っている。社員とボードメンバーは直接議論して開発の方向性を決め、研究を、ライセンスや申請に向け臨床と一体となって活動するよう集中させる。これにより、開発のスピードアップを狙っている。ボードは2019年12月にに創設され、委員長にミセル化ナノ粒子の発明者かつ創業メンバーである片岡一則東京大学名誉教授が就任。他のメンバーは2名の社外取締役で、東京女子医科大学名誉教授でユタ大学薬学部教授・細胞シート再生医療センター長の岡野光夫(おかの てるお)取締役、医師の大橋彰(おおはし あきら)取締役である。

Bear

  • 同社のパイプライン医薬品で上市に至ったものはない。収益源は限られているため、当面は赤字が続くだろう。資本市場でのファイナンスで一株あたり価値も希薄化されていくだろう。現在の収入は、開発マイルストーン収入、化粧品材料供給収入、化粧品売上、PRP療法(Platelet Rich Plasma、多血小板血漿療法)事業に係る医療機器売上等である。

  • 前臨床を含めても7品目の同社のパイプラインはボリューム不足で、他のバイオサイエンス上場企業ほどではない。一般的に創薬の成功確率は1/10から1/20といわれている。パイプラインの数量不足による成功確率の低さは企業価値推定の足枷となっていると思われる。

  • 後期開発品、核酸医薬品ともに同社が新しい技術を開発しているため、競合品を特定することは難しい。パイプラインの成功を予測することは非常に難しく、ナノキャリアが要求の厳しい株主を満足させる事業に育つかどうかは見当がつかない。

  • ナノ粒子技術を用いた同社のDDS技術の独自性は面白いが、一方で世界でのDDS技術競合の状況は不明である。 核酸医薬品への活用に関しては、核酸安定化技術の進展も競合となりうるがその状況も不明である。

  • 経営陣は今後もM&Aを主要な戦略の一つとして掲げており、投資家はいつの日か突然、合併買収に関連する一過性だが大きな損失が計上されるリスクにも留意しておくべきである。パイプラインは充実してきたとはいえ、候補薬の数は少なく、開発段階も偏りがないとはいえない。この点を補強するため、経営陣が積極的な拡張策を図る可能性は十分あると見る。現実に経営陣は、2021年3月期にはアキュルナの吸収合併で発生したのれん 1,553 百万円を減損損失処理し、最終赤字を大きく膨張させている。

  • 当社は保有キッズウェルバイオ(4584)株式を一株あたり簿価504円で100万株保有しており、同社株式が崩壊すれば大きな評価損失計上となる。同社は2019年3月期末には14億円弱の株式を主体とする有価証券ポートフォリオを保有していた。その後の株価下落で、2020年3月期には投資有価証券売却損と評価損で合計951百万円を特別損失を計上している。2021年3月期末で投資有価証券残高は686百万円であり、その7割は政策保有しているキッズウェルバイオ株式である。キッズウェルバイオ株価上昇により足元では含み益を得ている。その他に台湾証券取引場上場のLumosa Therapeutics Co., Ltd (TT6535) の株式488,250株を簿価68,123千円で保有している。

Pipeline

パイプラインはいくつかのリサーチレポートでも大変よくまとめてあるのですが、同社自身による解説が優れています。最新のプライマリー情報ですし、まずこちらに目を通してはと思います。また、決算説明会資料のパイプラインテーブルもとても見やすいものです。ですので本稿では、2021年6月発刊の最新の有報に若干のファクトを注記して、これらを投資家諸氏と共有します。従って、ここで示されている見解はナノキャリア社の見解です。

Source: Company materials

(i) VB-111 (導入品)

イスラエルのVascular Biogenics Ltd (VBLT, NasdaqGM)から2017年に国内の開発および販売権に関するライセンスを受けた遺伝子治療製品です。VB-111は腫瘍血管を破壊し、がんを兵糧攻めにするとともに、腫瘍免疫を惹起する2つの作用を併せ持ちます。治療法がないプラチナ製剤に耐性となった卵巣がんに対する革新的な治療薬になると期待されます。開発後期ステージ製品であることから、早期の収益化が期待できると考えています。

(注) Vascular Biogenics Ltd  (VBLT, NasdaqGM)  https://www.vblrx.com/

(ii) ENT103 (導入品)

セオリアファーマ株式会社との共同開発品で、中耳炎を対象疾患とした抗菌点耳薬です。耳科領域において四半世紀ぶりに行われた本格的な臨床試験となり、新たな治療薬の投入が期待されます。VB- 111同様に早期の収益化が期待できると考えております。

(注)ライセンスインは2018年です。

セオリアファーマ株式会社(非上場) https://www.ceolia.co.jp/ https://www.ceolia.co.jp/en/

(iii) NC- 6004 (シスプラチンミセル:導出品)

シスプラチンは、その有効性により各領域のがん化学療法の中心的薬剤であり、近年は、免疫チェックポ イント阻害剤の併用薬として非常に期待が高まっています。その一方でシスプラチンの腎機能障害、神経障害や催吐作用が極めて強いため、がん治療の中断を余儀なくされるなど、治療や生活の質(QOL)を著しく低下させます。当社は、シスプラチンが持つこれらの副作用をミセル化により軽減し、かつ効果の増強も期待できる新薬を目指し、抗PD- 1抗体との併用で臨床開発を推進しています。

(注)後期開発3品に資金や人的資源を集中させ早期収益化を実現するため、同社は2021年3月期以降においてはNC-6004の開発は頭頚部がんを対象とする第2相臨床試験に集中することとしました。

 (iv) NC- 6300 (エピルビシンミセル)

エピルビシンは、乳がん、卵巣がん、胃がんなどの適応症で世界的に普及しているアントラサイクリン系抗がん剤ですが、投与を重ねると心臓疾患を引き起こすため、その使用が制限されます。当社は、がん細胞内にミセル化ナノ粒子が取り込まれた際に細胞内のpH変化に応答し、エピルビシンが一 気に放出される機能を付加しました。これによりエピルビシンが持つ副作用の軽減と薬効の増強を期待できる新薬を目指し、臨床開発を推進しています。

(注)エピルビシンの副作用軽減を狙う薬剤です。2011年に興和株式会社(非上場)とライセンスと共同開発に関する契約を結びパイプラインに加わりました。その後、2016年10月に興和の戦略修正により解約されましたが、同社は興和の試験成果を継承し、開発を続けています。

「エピルビシンが一 気に放出される機能」とはpH応答性ミセルのことで、治療効果をより向上させる技術です。pHに応答して薬物を細胞内で集中的に放出するドラッグキャリアです。がん細胞は通常細胞よりも低pH環境にあります。pH応答性ミセルは外部刺激であるpH環境の低下に伴い、ミセル内に内包した薬物を細胞内でのみ集中して放出します。これにより、治療効果の向上が期待されます。

 (v) NC- 6100

独自の核酸DDS技術を用いたsi RNA医薬であり、がん幹細胞の成長を抑制させることが期待されます。これまでの医薬品では狙えなかったターゲット分子PRDM14を標的にすることで、現在治療法がない乳がんのタイ プに新たな治療の選択肢をもたらすと期待しています。治癒的切除不能又は遠隔転移を有する再発乳がんを 対象に公益財団法人がん研究会有明病院において医師主導第I相臨床試験が開始されています。独自の核酸 デリバリー技術を用いたsi RNA医薬であり、がん幹細胞の成長を抑制させることが期待されます。

(注)医師主導の治験(第I相)によるヒトへの初めての投与です。PRDM14分子は乳がん患者の約50%で発現しますが、低分子医薬品や抗体医薬の開発が難しく、核酸医薬に期待が寄せられています。2020年9月のアキュルナ社吸収合併によりパイプラインに加わった候補品です。

上述の臨床開発段階のパイプラインに続く次期のパイプライン候補として、以下の研究開発を推進しております。

 (i)TUG1(ASO)

独自の核酸DDS技術からなるアンチセンスオリゴ(ASO)医薬であり、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学との共同研究プロジェクトです。膠芽腫に高発現しているTUG1をASOにより抑制することで、がん細胞を細胞死に導きます。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的がん医療実用化研究事業に採択され、非臨床試験を推進中です。

(注)2020年9月のアキュルナ社吸収合併によりパイプラインに加わった候補品です。

(ii)RUNX1( mRNA)

独自の核酸DDS技術からなるメッセンジャーRNA(mRNA)医薬であり、軟骨の再生を誘導するRUNX1のmRNAによる変形性膝関節症の再生医薬として開発します。AMEDの医療研究開発革新基盤創成事業に採択され、アクセリード株式会社と共同で設立した株式会社PrimRNAが主体となり研究開発を推進します。本事業では、第I相 臨床試験まで実施する計画です。

(注)これも2020年9月のアキュルナ社吸収合併によりパイプラインに加わった候補品です。mRNAは歴史の浅い創薬プラットフォームですがファイザーやモデルナのCOVIDワクチンで注目を集めました。日本では1992年のワクチン副反応の集団訴訟で国が敗訴して以来、新しいワクチンがほとんど承認されず、企業はワクチン開発に力を入れず、研究者は少なくなりました。一方で、核酸医薬開発で先行していたアキュルナ社にはmRNAの研究開発による知見や情報が蓄積されており、ナノキャリアはこれらを承継しました。

アクセリード株式会社は、2020年4月に本稿後段で触れるウィズ・パートナーズ社がGeneral Partnerを務める創薬維新投資事業有限責任組合によって設立された創薬プラットフォーム事業を軸とする持ち株会社です。PrimRNAは2021年4月に資本金100万円で設立されました。 ナノキャリアとアクセリード社の持株比率は開示されていません。ナノキャリアの子会社ですが連結されていません。

Share price spike

これまでに、パイプラインの充実で今後、株価も面白みがますだろうと述べてきました。事実、IPO以来の同社の株価スパイクは、思惑ではなく、ほぼ全てがニュースフローによるものです。このことを確認するため、株価を動かした背景となったとみられる会社発表を取り上げてみました。

2013年3月 2012年10月に信越化学が第三者割当増資による1万2000株取得による筆頭株主化と医薬品開発に協力すると発表。大きな上昇トレンドを形成、株価は半年で28倍上昇。

2016年3月 アキュルナに出資。ナノキャリア株式会社は、現在手掛けている遺伝子デリバリー技術を適用した医薬品の開発について、アキュルナ株式会社(東京都文京区)と国内外の再実施権付独占的ライセンス契約を締結した。契約一時金に加えて、事業化に伴う一定のロイヤリティーやマイルストンを受領する。併せてナノキャリアは、同社との信頼・協力関係強化のため、同社に出資することを決定した。

2016年7月 ナノキャリアがドラッグデリバリーシステム(DDS)技術を開発し、日本化薬に導出したパクリタキセル内包の高ミセル化抗癌剤「NK-105」が転移性乳癌での有効性という高い壁を越えられなかった。⽇本化薬株式会社(本社:東京、代表取締役社⻑: 鈴⽊政信)より、平成28年7⽉5⽇付で、パクリタキセル内包⾼分⼦ミセル(開発コード NK105)の転移・再発乳癌を対象にした第III相試験において、主要評価項⽬が達成されなかったと発表。株価下落。

2018年1月 VBL社がプラチナ耐性卵巣がんの第3相試験の開始と第1例目の患者登録を発表。同社と11月にライセンス契約済みのVBL Therapeutics(本社:イスラエル)は、所有する遺伝子治療薬VB-111について、プラチナ耐性卵巣がん適応の承認申請根拠となる第三相試験(OVAL試験)の開始と第1例目の患者の登録を発表した。

2019年2月 遺伝子治療薬VB-111の米国臨床開発計画を発表。VB-111の臨床開発について、導入先のVBL社(イスラエル)の米国での開発計画を発表した。

2020年6月  ⽚岡⼀則教授らが6⽉4⽇に記者発表したミセル化ナノ粒⼦技術を⽤いた新型コロナウイルスワクチン開発について。ナノキャリアはアキュルナ株式会社を通じ、バックアップしていくと発表。片岡教授は、ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)と東京都医学総合研究所の共同研究開発で mRNA ワクチン製剤の最適化を半年以内に達成できるとし、その後の臨床開発はアキュルナ株式会社等の企業が協⼒し、実用化する必要がある、と述べた。

2021年8月 NC-6004 のPhase IIbの順調な進捗を公表。

2021年9月 ENT103が国内第Ⅲ相臨床試験で主要評価項⽬を達成したことを発表。

Shareholder activities

同社の主要な株主は国内ベンチャーキャピタルと個人投資家となっています。主だった機関投資家や事業会社は投資を撤退、もしくは縮小させてしまいました。

株式会社ウィズ・パートナーズ(Whiz Partners) が2021年5月10日時点で23.92%の大量保有保有報告をしています。前回報告の2020年3月26日時点では10.61%でした。同社は2010年設立の独立系運用会社で、上場会社のバリューアップとファイナンス、ヘッジファンド、ヘルスケアを中心としたプライベートエクイティを行っているとのことです。特にヘルスケアPEでは高い専門性を有しているとこのことです。ナノキャリアの株式は、取締役CIOで、武田薬品工業の医薬研究本部研究員であった藤澤朋行が運用するヘルスケアファンドに組み込まれています。その他の投資先は、シンバイオ(4582)、FRONTEO(2158)、キッズウェルネス(4584)、セルシード(7776)、ナノデックス株式会社、メディネット(2370)、株式会社免疫生物研究所(抗体試薬開発)、リボミック(4591)、メドレックス(4586)、Forte Bioscience (NAZDAQ FBRS)、WHILL株式会社(電動椅子)などとなっています。前述のように、2020年4月にナノキャリアと共同でRUNX1の開発を行うために設立されたPrimRNAの株主です。PrimRNAはナノキャリアの非連結子会社ですが、株主の持分は開示されていません。

ベンチャーキャピタルの東大IPC (Incubation Platform for the Unversity of Tokyo)が1.73%、同じくベンチャーキャピタルの株式会社ファストトラックイニシアティブ(FTI: Fast Track Initiative)が2.22%を保有しています。FTIはバイオテックとヘルステックに特化した投資家で、生命科学博士の安西智宏氏が代表パートナーです。安西氏は東大大学院出身で、経営コンサルティングの経験があり、バイオ企業の経営戦略やR&D戦略などに関わってきたようです。

上場事業会社の投資は著しく減少し、僅かとなっています。信越化学(4063)は 2020年に保有株の40%を減らしました。ノーリツ鋼機(7744)も同年に持分の半分を売却し、中外製薬(4519)は全ての持分を売却しています。

四季報による2021年3月末の外国人保有比率は2.86%です。以前には、JP Morgan Asset、Baillie Giffordの2社が主要な外人機関投資家株主でしたが、いずれも2020年後半から現在までにポジションを処分しています。JP社は186万株、BG社は123万株を保有していました。この結果、めぼしい外国機関投資家株主はほとんどいなくなりました。ここ半年間に、State Street Global Advisorsが少しずつ買い増していますが大きなポジションではありません。