証券コード |
東証PRM:4390 |
時価総額 |
35,384 百万円 |
業種 |
情報・通信 |
当社はフィリピン事業で売上の63%、営業利益の51%を稼ぎ出している。事業は4セグメント。1)海外通信事業:フィリピンのCATV事業者等に国際通信回線を提供、2)フィリピン国内通信事業:フィリピン国内での法人向けISPの提供、3)国内通信事業:日本国内での通信サービスの提供、4)医療美容事業:フィリピンでの医療・美容サービス。2020年5月、マニラと香港・シンガポールを結ぶ国際海底ケーブル(C2C回線)の使用権の一部をオーストラリア最大手の通信事業者から取得。同年10月より回線の提供を開始した。この結果、当社はフィリピンで第3番目の国際データ通信キャリアとなった。収益率では現地通信事業トップ2社に見劣りしないが、規模の格差は大きい。
今が注目の好業績銘柄。フィリピン通信市場で飛躍。
アイ・ピー・エスは昨年11月高値から2割程度の調整を経て戻り歩調。2月10日に今3月期第3四半期(2022年4月〜12月)決算発表を予定しており、好業績銘柄として注目のタイミングにある。
同社はフィリピンのCATV(ケーブルテレビ)事業者へ海底ケーブルを用いた国際データ通信回線を提供する「国際通信事業」、マニラ首都圏地域を中心に法人向けISP(インターネットサービスプロバイダー)を提供する「フィリピン通信事業」などを展開。足元では国際通信事業が高成長を遂げ、業績拡大を牽引している。
昨年11月には通期の営業利益予想を上方修正した。2Qは設備投資や営業員増強などの先行投資により、フィリピン通信事業が減収減益となるも、国際通信事業はC2C回線(国際海底ケーブル)の拡販が順調に進み、IRU(※)契約案件の収益計上がなされたことで大幅な増収増益を達成した。下期もリース契約案件の増加に加え、IRU契約案件の一括入金による収益計上が計画されている。
また、コールセンター向けサービスを提供する「国内通信事業」や、フィリピンで美容皮膚科と近視矯正手術(レーシック)のクリニックを運営する「メディカル&ヘルスケア事業」も好調。後者では人間ドック・健診センター開設により予防医療分野への進出を図る。
※通信事業者から15年程度の長期的・安定的な通信回線使用権を取得または賃借し、その回線の長期使用権をCATV事業者に転貸することで、契約期間中の転貸収入を得る。
フィリピン通信事業自由化は大きな懸念材料だが、それを恐れるのは早計。
8%前後で成長中のフィリピン経済は、インフレや中国をはじめとする世界経済減速で5%程度へ減速するも、再び高成長軌道に載る見通しである。 経済成長を背景としたブロードバンドインターネット接続需要の急速な拡大に、フィリピン子会社InfiniVANの先行的地歩があいまった利益成長は当社の面白みである。フィリピンテレコムセクターではモバイルは飽和したが、家庭用ブロードバンドの普及が発展期にある。マルコス大統領も通信インフラ拡大を重要視している。
フィリピン通信事業外資規制撤廃は脅威
一方で、外資規制が2022年3月に撤廃され、外国企業による公共サービス事業の100%所有が認められた。競争激化は規模に劣る当社存亡の懸念を大きく膨らませる。当社の収益は、国際海底ケーブルの長期使用権を得たことにより2021年3月期から目覚ましく切り上がり、堅調である。しかし、通信事業の外資解放による競争激化の時代ではいずれ苦戦を強いられるであろう。 日本市場を例として振り返れば、しばらく各企業が儲けを得たのちに政府から料金圧縮の圧力がかかり、過当競争が一気に激化。赤字で撤退する企業が出たのち低成長安定期に入る、という道筋を辿っている。
当社の今のエッジは永続しないだろう
当社はフィリピン第3番目の通信企業であるが、トップのGlobe Telecom社とPDTL社はそれぞれ時価総額で1.6兆円、8000億円の大企業であり、時価総額370億円の当社との体力差は明らかである。そこに外資もしくは外国有力企業の資本と技術をバックにした企業が参入してくる。創業者である宮下社長は強みとして4点をリストアップしているが、自由競争下ではいずれもリスクにさらされるであろう。1)参入障壁による子会社InfiniVANの優位性、2)高採算市場への集中と直販体制による低価格実現、3)鉄道網を活用したバックボーン回線など常につながる状態を実現する日本で培った経験、4)低価格で信頼性のあるサービスを展開することによる低い顧客の解約率とその結果の安定的成長。
しかしながら、ニッチ市場で当社が健全に業績拡大を続けていくことが可能であるなら長期の株価にもプラスであろう。それがどこかはまだわからない。
ベアマーケットラリーは終盤に近いが、短中期の当社株価には上昇余地がある
まず、当社株式のテクニカル指標はさほど悪くないが、目下のベアマーケットラリーが終盤にきている可能性に留意すべきことを述べておく。当社株式への今後数年間の投資については、現実的なシナリオとして、競争激化による当社の存亡リスクが顕在化するまでに、短中期の収益成長が株価を押し上げるだろうと予想する。株価マルチプルの下押し圧力は依然強いだろう。しかし、30%近いROEや5年CAGRで40%近いEBITの成長に対して12xのPER、3.6xのPBRはすでにリスクをかなり織り込んでいる証左と考えられる。よって株式プレミアムの低下は当面緩やかに進行すると予想する。利益やBPSの成長速度がプレミアム低下速度を凌いで、適正株価のアップサイドはまだ大きいのではと考える。投資家は、大資本との勝ち目の少ない競争、という当社の将来図が落とす影を恐れるあまり、短中期の収益成長を早々に過小評価すべきではない。
産業集約と子会社上場の可能性
さらには同業他社が株式取得に興味を持つ可能性は否めない。10xのEBITDAは業界がブームを迎えるフェーズでは決して高すぎないだろう。また、外資事業者が通信事業免許を取得する条件として5年以内にフィリピンの証券取引所に上場する当時の法令により、当社はフィリピン子会社であるInfiniteVANを数年内に現地上場させる見通しである。さらに、フィリピンでレーシックを中心に医療美容を行っているShinagawa Lasik & Aesthetics Center Corporationも、50%の株式を保有している品川美容外科のオーナーの希望もあり現地上場を考えている。本稿では株式価値に及ぼす計算を行う余裕がないが、これらは株価にはプラスの材料となろう。
再投資意欲に高い評価。魅力的なROEは維持できよう。
ROEの行方に関する見解はニュートラルである。長期では、通信事業投資による資産拡大、競争による収益率圧迫と償却費や営業費用増により、資産回転率とPL利益率は趨勢的に下がっていくであろう。一方で、積極的なCFリサイクルと借入拡大でequity leverageは高まり、20%超のROEは当面、難なく維持できるだろうと考える。Globe TelecomとPDTLとの比較でも劣ることのない株主資本利益率を維持するだろう。当社はCFを高いROEの本業に積極的に再投資している。生き残るにはそうするしかないからだが、株主には的を得た財務戦略であり高く評価される。
Dupont Model
当社のフィリピン通信事業については2021年10月のIR資料が参考になる。翻訳版がないがよくできた資料であるので投資家は是非ともDeepL翻訳を考慮されたい。