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Omega Investment株式会社

キッズウェル・バイオ (Investment report – Basic)

株価(9/7)164 円予想配当利回り(27/3予)0.0 %
52週高値/安値125/320 円ROE(26/3実)-28.1 %
1日出来高(3か月)667.1 千株営業利益率(26/3実)-2.1 %
時価総額82.9 億円ベータ(5年間)1.21
企業価値72.3 億円発行済株式数 50.582 百万株
PER(27/3予)- 倍上場市場 東証グロース
PBR(26/3実)4.5 倍
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収益基盤を持つバイオ企業への転換期
バイオシミラーの利益定着とSQ-SHEDの事業化が次の企業価値を決める

投資判断

キッズウェル・バイオに対する投資判断は、前回の強気判断を維持する。今回のベーシックレポートでは、2027年3月期第1四半期の営業黒字そのものより、同社が過去数年にわたって抱えてきた収益の不安定さ、研究開発資金への外部調達依存、株式希薄化という課題から離れ、既上市バイオシミラーの利益を基盤に次の成長へ投資できる企業へ移行し始めている点を重視する。2022年3月期から2026年3月期にかけて売上規模は大きく拡大した一方、利益とキャッシュフローは安定せず、事業成長が必ずしも一株価値の増加につながらない期間が続いた。現在は、その長期的な制約が変わるかを評価する転換期にある。2027年3月期第1四半期は売上高12.70億円と前年同期比26.2%減少した一方、営業利益2.17億円、売上総利益率34.0%を確保した。研究開発費の計上が第2四半期以降に増えるため、この利益水準をそのまま通期へ延長することはできないが、価格改定と原価低減によって減収下でも利益を残せたことは、中長期の収益構造を考えるうえで重要な初期検証となった。

投資判断を支える材料は、足元の収益性だけではない。1年から2年の時間軸では、既上市バイオシミラーの営業黒字が研究開発費増加後も定着するか、新規バイオシミラーが次の収益源として具体化するかが重要になる。中期的な時間軸では、国内製造施設が供給安定性と原価競争力を高め、SQ-SHEDが国内外の企業治験へ進むことで、企業価値の構成そのものが変わる可能性がある。バイオシミラーでは既上市品の利益率改善、新規候補品の共同開発、国内製造施設の建設が並行して進む。細胞治療では脳性麻痺を最重要適応症として、名古屋大学の臨床研究が全3症例の52週観察を終え、国内では持田製薬との企業治験準備、米国ではTreehill Partnersとの開発体制構築とIND申請準備が進んでいる。さらに、第24回新株予約権の行使完了、第4回転換社債の全額転換、25億円のシンジケートローン組成により、成長資金を株式市場だけに依存する構造も改善している。

もっとも、この転換が定着したと判断するには、なお三つの確認点がある。第一に、GBS-007はアイリーアAGと他社アフリベルセプト・バイオシミラーの参入によって販売数量の圧力を受ける可能性があり、既存事業の粗利を価格改定と原価低減で守れるかを確認する必要がある。第二に、第1四半期の研究開発費0.33億円は前年同期の2.12億円から大幅に少なく、第2四半期以降に費用が増えても営業黒字を維持できるかが収益基盤としての真価を決める。第三に、第23回新株予約権1,374,600株分が残り、細胞治療の大型臨床費用も将来発生するため、希薄化懸念が完全に消えたわけではない。したがって、本レポートでは一四半期の営業利益額ではなく、粗利率、営業キャッシュフロー、資金調達方法、臨床開発の進捗を複数年度で追う。

株価163円、時価総額82.5億円、実績PBR5.03倍は、現在利益だけを基準にすれば割安とは言いにくい。しかし、中長期の投資判断では、現在の利益水準より、同社が赤字を前提とする研究開発型バイオ企業から、既存事業の利益を持ちながら細胞治療の成長価値を追求する企業へ移れるかを評価する必要がある。当社試算のPBR、DCF、ROIC三法による適正株価は145円から235円、各手法の中心値の中央値は180円程度であり、現在株価はその中央値を下回る。今後1年から2年で営業黒字の定着と新規バイオシミラーの進展が確認され、中期的な時間軸で国内製造とSQ-SHEDの臨床開発が具体化すれば、現在の評価枠自体が変わる可能性がある。したがって、現在は短期利益を追うより、企業構造の転換過程を中長期で評価する局面と位置付ける。

1. 中長期の位置づけ:研究開発先行型から収益基盤を持つバイオ企業への転換期

同社の現在を理解するには、第1四半期の営業黒字だけを見るのではなく、過去5年程度の事業構造の変化を振り返る必要がある。売上高は2022年3月期15.69億円から2026年3月期65.90億円まで拡大し、バイオシミラーの上市品と供給量は増えた。一方、研究開発費、為替、製造原価、在庫・前渡金、資金調達の影響によって損益とキャッシュフローは大きく振れた。株式数も増加し、事業規模が拡大しても一株当たり価値の成長が見えにくいことが、長期の株価評価を抑えてきた。

この数年間を第一段階とすれば、同社はバイオシミラーを上市し売上規模を作ることには成功したが、安定利益と自律的な資金循環を確立するには至らなかった。現在始まりつつある第二段階では、既上市バイオシミラーの価格改定、原価低減、製造・納品管理によって利益を残し、その資金を新規バイオシミラー、国内製造、SQ-SHEDへ再投資することが課題になる。ここが定着すれば、研究開発の進展がそのまま追加の株式調達につながりやすかった従来の構造から離れることができる。

1年から2年では、営業黒字の継続、新規バイオシミラーの開発進捗、GBS-007の競争影響、研究開発費増加後のキャッシュ創出力を確認する。中期的な時間軸では、国内製造施設の稼働、新規バイオシミラーの商用化準備、SQ-SHEDの国内企業治験と米国臨床開発が企業価値を左右する。つまり、短期の利益改善は目的そのものではなく、将来の開発資金を自ら生み出せる企業へ移るための条件である。

この観点からみると、2027年3月期第1四半期は完成形ではなく、構造転換の初期検証と位置付けるのが適切である。減収下で営業増益を確保したことは、売上数量の拡大だけに依存せず利益を作る仕組みが働き始めたことを示す。一方、研究開発費はこれから増え、GBS-007の競争影響も残るため、次の数四半期で同じ構造が維持されるかを見る必要がある。当レポートは、現在を単なる好決算後ではなく、過去の成長投資を持続的な株主価値へ変換できるかを試す転換期として評価する。

2. 1四半期決算:構造転換の初期検証としてみる減収下の増益

2027年3月期第1四半期の連結業績は、売上高12.70億円、売上総利益4.31億円、営業利益2.17億円、経常利益2.04億円、四半期純利益1.98億円となった。当レポートでは、この一四半期を単独で評価するのではなく、過去数年に続いた売上拡大と利益不安定の乖離が縮まり始めたかを見る材料として捉えたい。売上高と売上総利益は前年同期を下回ったが、営業利益、経常利益、四半期純利益は前年同期を上回った。売上高減少は一部バイオシミラー原薬等の納品数減少によるものであり、製造と納品自体は計画通り進んだと会社は説明している。重要なのは、減収でも利益を伸ばしたことである。

粗利率は34.0%で、2026年3月期通期の26.5%から7.5ポイント改善した。前年同期の34.7%にはわずかに届かないものの、2026年3月期第2四半期25.4%、第3四半期19.4%、第4四半期26.6%からは明確に持ち直している。前期は円安、製造原価、製造工程の問題が重なり利益率が不安定だった。今回、さらなる円安という逆風が続くなかで一定の粗利率を確保したことから、供給価格改定と製造原価低減品への切替の効果が出始めたとみることができる。

営業利益率は17.1%と高いが、これを定常利益率とみるべきではない。研究開発費は0.33億円にとどまり、前年同期の2.12億円から1.79億円減った。会社は研究開発費が第2四半期以降に本格計上されるとしており、脳性麻痺の国内外臨床開発、新規バイオシミラー、製造プロセス開発などの投資は継続する。その他販管費も組織体制の見直しと業務効率化で減少しており、第1四半期は利益率改善と費用計上時期の双方が営業増益に寄与した。従って、投資家が第2四半期以降に確認すべきなのは営業利益額そのものではなく、研究開発費増加後にも粗利改善が営業黒字を支えられるかである。

会社予想は売上高50億円から60億円、営業利益1億円から6億円で据え置かれている。第1四半期時点で営業利益はレンジ下限を超えたが、会社が予想を引き上げていないのは合理的である。GBS-007の競争影響がまだ精査中であり、研究開発費もこれから増える。現時点では営業黒字化の達成確度は上がったが、上限6億円を前提に株価を評価する段階ではない。

百万円 2026/3 1Q 2027/3 1Q 前年同期比
売上高 1,721 1,270 ▲26.2%
売上総利益 597 431 ▲27.8%
粗利率 34.7% 34.0% ▲0.7pt
研究開発費 212 33 ▲84.6%
営業利益 185 217 +17.3%
営業利益率 10.7% 17.1% +6.4pt
四半期純利益 157 198 +26.0%

出所:キッズウェル・バイオ 2026年度第1四半期決算補足説明資料、FactSet。

図1 四半期粗利率と営業利益の推移

出所:FactSetデータを基に当社作成。2025年3月期第1四半期から2027年3月期第1四半期。

3. バイオシミラー事業:既上市品の収益改善と次の成長基盤

同社の中長期的な企業価値を支える第一の柱は、既上市バイオシミラーを一時的な売上源ではなく、安定した利益とキャッシュを生む事業へ成熟させられるかにある。同社のバイオシミラー事業は、研究開発型企業のなかでは珍しく、上市済み製品の原薬・製剤供給から継続的な売上と粗利益を得られる。現在の主要上市品は、フィルグラスチムのGBS-001、ダルベポエチンアルファのGBS-011、ラニビズマブのGBS-007、ペグフィルグラスチムのGBS-010である。2026年3月期には連結売上高65.90億円まで拡大し、長期的には売上規模が大きく変わった。しかし、売上高の増加だけでは企業価値が上がらないことも前期に示された。円安、海外CDMOの製造コスト、製造工程の問題が利益を圧迫したためである。

今期の重要な変化は、会社が利益率の適正化を事業運営の中心に置いていることである。2025年3月期第3四半期と2026年3月期第3四半期に、それぞれ異なる一部原薬等の供給価格改定を実施し、2026年3月期第4四半期から一部製品を製造原価低減品へ切り替えた。第1四半期ではその効果が粗利率に現れた。今後は、さらに別の原薬等について製造所追加や製造量拡大を進め、収益性と供給安定性の双方を改善する。バイオシミラー事業を数量成長だけで見るのではなく、供給価格、製造原価、納品量、製造所数、為替、製品構成を一体で管理する事業として評価する必要がある。

この変化は企業価値の安定性に直結する。細胞治療の開発費は大型化しやすく、外部資金だけに依存すると株式希薄化が繰り返される。既上市バイオシミラーが安定粗利を生めば、研究開発費の一部を自ら賄える。2026年3月期は単体営業利益4.34億円を確保しており、既存事業が研究開発投資を支える基盤になっている。2027年3月期第1四半期も、連結で営業黒字を確保したことから、この構造は前期より一歩進んだ。

ただし、GBS-007の競争は警戒が必要である。2026年1月以降、アイリーアAGとアフリベルセプト・バイオシミラーが販売開始となり、会社はGBS-007への売上・利益影響をパートナー製薬企業と精査している。眼科領域では同じ作用領域の製品が増えるほど、数量と価格の双方に圧力がかかりやすい。したがって、GBS-007の販売数量については保守的にみるべきである。一方、競争激化を全社利益の悪化と同義に扱う必要はない。供給価格改定、原価低減、製品構成、新製品の納品で粗利益を補えるなら、数量が減っても利益を守れる。第1四半期はまさにその可能性を示した。

次回以降の決算では、GBS-007の納品数量と売上構成、粗利率、製造原価低減品の比率、追加製造所の承認進捗、GBS-010を含む他の上市品の納品安定性を確認したい。会社が今後業績予想を精緻化する際、GBS-007の影響がどの程度レンジに織り込まれたかも重要である。競争は深刻化しているが、同社が利益率改善策を先行して進めているため、現時点ではバイオシミラー事業全体を弱気にみる必要はない。

図2 売上高・営業利益・粗利率の長期推移

出所:FactSetデータを基に当社作成。2021年3月期から2026年3月期は実績、2027年3月期の売上高と営業利益は会社予想レンジ。

 新規バイオシミラーと国内製造:中期的な収益源を作る

中期的な時間軸で考えると、既存4品の利益改善だけでは成長の持続性は十分ではない。既存4品の供給だけに依存すれば、薬価改定や競合参入によって売上と利益はいずれ成熟する。そこで同社は、カイオム・バイオサイエンス、アルフレッサホールディングス、Mycenax Biotechと複数の新規バイオシミラーを共同開発している。細胞株構築が進行し、さらに追加候補品の検討も続く。新規品の名称や対象疾患は非開示だが、開発進捗に応じてアルフレッサホールディングスから対価を受領する契約であり、2026年3月期にはその一部を売上収益として計上している。これは資本制約のある同社にとって重要である。

より大きな意味を持つのが国内製造施設である。厚生労働省のバイオ後続品国内製造施設整備支援事業に採択され、アルフレッサホールディングス、カイオム、Mycenaxと連携して、秋田県のアルフレッサ ファインケミカル敷地内で原薬・製剤製造施設を建設している。合弁会社Alfenax Biologicsを通じ、将来は自社共同開発品の商用製造だけでなく、バイオ医薬品CDMO事業への展開も想定する。

この施策は新規売上源というだけではなく、同社の既存事業が抱える弱点を補う。現在のバイオシミラーは海外CDMOへの依存が高く、円安や海外物価上昇が製造原価に影響する。製造工程上の問題が起きれば納品量や棚卸資産にも影響が及ぶ。国内製造が安定稼働すれば、供給リスクの分散、製造リードタイムの管理、為替感応度の低下につながる可能性がある。また、新規バイオシミラーを海外展開する際、国内製造実績を持つことはパートナー交渉にも有利に働き得る。

もっとも、工場は建設すれば直ちに利益を生むわけではない。設備の稼働率、品質認証、商用製造の受注、製造原価が経済合理性を満たすことが必要である。同社の直接投資負担と合弁会社の資金調達条件も確認したい。したがって本レポートでは、国内製造施設を短期業績の上振れ要因としてではなく、中期的な供給安定性と収益基盤拡張を支える中期資産として評価する。

企業価値形成上の役割 主要KPI 主な上振れ要因 主な下振れ要因
既上市バイオシミラー 納品量、供給価格、
粗利率、製造原価
価格改定、原価低減、安定供給 GBS-007競争、円安、製造トラブル
新規バイオシミラー 細胞株構築、共同開発契約、
開発対価
候補品追加、海外パートナー 開発遅延、開発費増加
国内製造・CDMO 建設進捗、施設竣工、
稼働開始、稼働率・受注
供給安定、為替感応度低下、
外部受注
立上げ遅延、低稼働、追加資金負担

出所:会社資料を基に当社整理。

4. 細胞治療:研究資産を企業価値へ変える次の段階

細胞治療事業は、中期的な企業価値を大きく左右する第二の柱である。子会社S-Quatreが独自開発した乳歯歯髄幹細胞SQ-SHEDを用い、現時点では利益貢献より研究資産を臨床・事業化価値へ変える段階にある。同社は2026年3月に研究開発体制を再編し、脳性麻痺を最重要適応症として経営資源を集中する方針を示した。研究テーマを広げるだけではなく、最も事業化確度を高めやすい領域へ人員と資金を集める段階に入った点を評価したい。

脳性麻痺では、名古屋大学主導の自家SQ-SHED臨床研究で全3症例の投与が完了し、2026年5月までに全症例の投与後1年間の観察が終了した。2025年11月に公表された中間解析では安全性・忍容性が確認され、運動機能の改善が報告されている。2026年内に予定される最終解析結果は、今後の企業治験の科学的根拠を補強する重要な材料になる。症例数が3例と小さいため、この結果だけで有効性を確定することはできないが、少なくとも次の臨床段階へ進む合理性を確認するデータとして意味がある。

国内企業治験では、同種SQ-SHEDのGCT-103について持田製薬との共同事業化契約に基づき準備が進む。持田製薬が治験等、S-Quatreが製造等を主に担う。試製造を経てGMPに則した本製造の準備を進めており、治験届提出と治験開始が次の大きな節目となる。投資家にとって重要なのは、研究成果の数ではなく、治験開始時期、症例規模、費用負担、将来の販売・製造条件がどこまで明確になるかである。

米国では2025年10月にFDAとのPre-IND Meetingを実施し、企業治験計画について合意と助言を得た。2026年2月にはTreehill Partnersと米国新会社設立に基本合意し、海外臨床開発と資金調達を共同で進める方針を示した。米国展開は企業価値への影響が大きい一方、開発費も大きくなる。従って、IND申請の時期、新会社の資本構成、Kidswell Bioの持分、外部投資家からの調達額、治験費用の分担が評価の中心となる。

SQ-SHEDの製造面では、Corning Life Sciencesの協力の下で大量培養プロセスを開発し、ニプロとの共同開発によって後期臨床試験と商用製造を見据えた製造プロセス確立を進める。細胞治療では、臨床データだけでなく同一品質を大量製造できるかが事業化の条件になる。製造歩留まり、細胞特性の同等性、コスト、スケールアップは、臨床試験開始と同じ程度に重要なKPIとみるべきである。

脳性麻痺以外では、九州大学と先天性腸管神経疾患GCT-102の臨床研究開始に向けた準備を進めているほか、大腿骨頭壊死症、遺伝子改変SQ-SHED、制御性T細胞、腫瘍溶解性ウイルス、エクソソームなどへの応用可能性が示されている。ただし、企業価値評価ではこれらを同じ重みで扱わない。現時点では脳性麻痺が最も事業化に近く、他の研究は将来の開発候補として位置づける。研究テーマが多いこと自体を価値とせず、臨床段階への移行、外部資金の獲得、提携条件の具体化に応じて価値を認識する。

パイプライン 現段階 次に確認すべき事項 投資家目線の位置づけ
GCT-103 脳性麻痺 臨床研究52週観察終了、
国内外治験準備
最終解析、国内治験届、
米国IND申請、資金分担
企業価値への影響が最も大きい
GCT-102 先天性腸管神経疾患 AMED採択、臨床研究準備 症例組入れ、製造、初期安全性 AMED採択による公的支援を受けた開発案件
SQ-104 大腿骨頭壊死症 前臨床段階 臨床移行の条件 中長期候補
その他応用研究 研究・応用可能性検討 外部提携、適応選択 現時点では評価を限定

出所:キッズウェル・バイオ 2026年度第1四半期決算補足説明資料、株主総会招集通知を基に当社整理

5. 資本政策・財務・株主構成:希薄化を抑えながら成長投資を支える

同社の長期的な株主価値を考えるうえで、資金調達構造は事業開発と同じくらい重要である。研究開発型企業では、事業価値が向上しても新株発行が繰り返されれば1株ベースの価値が増えにくい。キッズウェル・バイオも過去数年、転換社債と新株予約権を活用して開発資金を確保してきたため、事業が前進しても潜在株式供給が株価評価を抑える局面があった。現在は、既存事業の利益、銀行借入、提携先資金を組み合わせることで、この制約を弱められるかが次の段階の焦点となる。

第24回新株予約権は全数行使済みとなり、資金調達を完了した。第4回無担保転換社債型新株予約権付社債は2026年7月に全額転換が完了した。さらに2025年11月には、みずほ銀行をアレンジャーとして総額25億円、期間5年のシンジケートローンを組成した。金融機関借入を組み合わせることで、開発資金をすべて株式市場から調達する必要性は低下している。これは1株ベースの株主価値の観点から高く評価できる。

一方、第23回新株予約権は1,374,600株分が残り、行使期限は2028年1月である。現在の発行済株式数50.583百万株に対して約2.7%に相当するため、株式調達が完全に終了したとはいえない。ただし、従来の転換社債と第24回新株予約権が同時に残っていた状態に比べれば、潜在希薄化は大きく低下した。会社の表現に沿えば、早期資金調達完了へ向けたリファイナンスが進んだと評価できる。

第1四半期末の現預金は32.34億円、有利子負債合計は24.75億円で、単純差額では7.59億円のネットキャッシュとなる。ただし、前渡金13.42億円、仕掛品4.14億円など、バイオシミラー製造に必要な運転資金が大きい。従って現預金全額を自由に使える余剰資金とみなすべきではない。それでも、営業黒字化と銀行借入が併存することで、細胞治療の臨床開発費を株式発行だけに頼らず賄える可能性が高まった。今後の確認点は、第23回新株予約権の行使状況、Treehill新会社の外部調達条件、国内製造施設への追加資金負担、営業キャッシュフローの改善である。

図3 現預金・有利子負債・株主資本の推移

出所:会社IR資料、FactSet。希薄化率は、発行済株式数50.583百万株に対する当社計算に基づく。

資金調達手段 現状 株主価値への評価
第24回新株予約権 全数行使済み 追加希薄化要因は解消
第4回転換社債 2026年7月に全額転換完了 大きな上値供給懸念が後退
第23回新株予約権 1,374,600株分が残存 約2.7%の潜在希薄化が残る
シンジケートローン 25億円、5年 株式調達依存の低下に寄与

出所:会社IR資料、FactSet。希薄化率は、発行済株式数50.583百万株に対する当社計算に基づく。

株主構成:長期の再評価には投資家層の広がりも必要

FactSetデータでは、ノーリツ鋼機が18.72%を保有する最大株主であり、NANOホールディングス1.98%、Heights Capital Management 1.87%、江平文茂氏1.87%、JSR1.36%、千寿製薬1.10%が続く。内部利害関係者の保有比率は27.87%、浮動株比率は72.1%である。ノーリツ鋼機という大口株主が存在する一方、機関投資家保有比率は1.99%にとどまる。

この株主構成には功罪がある。大口安定株主は短期的な需給を安定させやすく、事業会社株主には提携関係との整合性も期待できる。一方、機関投資家の参加が少ないため、営業黒字化やパイプライン進展が実現しても株価評価が直ちに上がるとは限らない。逆に、連結営業利益の定着と臨床開発の具体化が進み、投資可能な小型成長株として認識されれば、機関投資家層の拡大自体が株価評価の変化につながり得る。

また、潜在株式の行使が進んだ結果、発行済株式数は50.583百万株まで増えている。株価分析では過去の1株ベースの指標と現在を単純比較せず、株式数増加を考慮する必要がある。今後、利益成長が発行済株式数の増加を上回り、1株ベースの利益とBPSが持続的に伸びるかが重要になる。

株主 保有比率 保有株数 千株
ノーリツ鋼機 18.72% 9,468
NANOホールディングス 1.98% 1,000
Heights Capital Management 1.87% 947
江平 文茂 1.87% 947
JSR 1.36% 687
千寿製薬 1.10% 555
紅林 伸也 0.17% 87

出所:FactSet Ownership、2026年8月12日時点。

6. 株価とバリュエーション:短期懸念と中長期価値の間にある現在

株価は2026年2月、Treehill Partnersとの米国新会社設立に関する基本合意を受けて、高値301円まで上昇した。その後は下落基調となり、8月14日の引値では163円となった。当レポートの観点では、この下落を直近材料への反応だけでなく、過去数年に積み上がった収益性、競争、希薄化への不信がまだ解消されていない結果とみたい。企業の中身は変化し始めている一方、株式市場はその持続性を確認してから評価を変えようとしている。

第一に、GBS-007の競争環境である。アイリーアAGと他社バイオシミラー参入により、売上高の大きな部分を担う既上市品の数量成長に不透明感が生じた。第二に、2026年3月期に営業黒字化が実現しなかったことで、会社計画の実現時期に対する信頼が低下した。第三に、転換社債と新株予約権による潜在株式供給が続き、好材料が出ても株価上昇時に新株供給が意識されやすかった。第四に、細胞治療の研究成果は増えているものの、売上・利益へ結びつく治験開始時期、提携条件、外部資金調達がまだ確定していない。第五に、第1四半期の高い利益率には研究開発費の計上時期が影響しており、市場は年間利益の持続性をまだ確認できていない。

従って、事業が全方位で前進しているのに株価だけが不合理に下落している、と単純化するのは適切ではない。市場が懸念してきた収益性、競争、希薄化の三つについて、改善が始まったが完全には解消していないという状態である。ただし、7月の転換社債全額転換と第1四半期営業黒字によって、このうち収益性と希薄化の懸念は前回よりかなり後退した。今後GBS-007の競争影響が限定的で、研究開発費増加後も営業黒字を確保できれば、株価形成の前提は変わる。

株価163円の時価総額は82.5億円である。前回レポート時の137円からは戻しているが、2月高値301円時点の時価総額約152億円に比べればほぼ半分である。市場はSQ-SHEDの将来価値を完全にゼロ評価しているわけではないが、事業化確率に大きな割引を置いていると考えられる。次の株価材料は、単なる研究発表ではなく、国内治験届、米国IND申請、Treehill新会社の資金調達、業績予想の精緻化といった、利益・資金・臨床工程に直接結びつく情報になる。

バリュエーション:現在利益と将来の事業価値を分けて評価する

株価163円、実績BPS32.4円から算出されるPBRは5.03倍である。当レポートの観点では、2027年3月期だけの利益を当てにいくより、既存事業の正常化利益と、中期的に具体化し得る新規バイオシミラー、国内製造、SQ-SHEDの価値を分けて考える方が適切である。会社予想EPSは公表されていないため予想PERは算出できず、予想ROEも同様に算出できない。赤字期から黒字転換期にあるため、現在のEPSやROEを用いた単純な株価評価は避ける。

通常の株価に織り込まれたEPS成長率の逆算についても、直近5年間のEPSが継続的に赤字であり、会社予想EPSもないため、正の基準EPSからCAGRを計算する方法は数学的に意味を持たない。5年実績EPS CAGRも同じ理由で算出不可である。代替として、現在時価総額82.5億円が要求する持続的な利益水準をみる。将来PER20倍なら純利益約4.1億円、25倍なら約3.3億円、30倍なら約2.7億円が必要となる。第1四半期純利益1.98億円を単純年率化すればこの水準を上回るが、研究開発費が後半に増えるため、この年率化は採用しない。市場が求めているのは2.7億円から4.1億円程度の持続的純利益と、細胞治療の事業化進展を同時に確認することだとみる。

PBR法では、現在BPS32.4円に対し、営業黒字定着と資本構成改善を前提に4.5倍から6.0倍を適用した。適正株価は146円から194円、中心値170円である。現在PBRが既に5.03倍であるため、PBRだけでは大幅な割安とはいえないが、利益改善でBPSが増えれば同じPBRでも株価水準は上がる。

DCF法では、2027年3月期から2031年3月期にかけてバイオシミラーの利益率改善と新規開発の進展によってフリーキャッシュフローが段階的に増加する前提を置き、WACC9.5%から11.0%、永久成長率1.0%を用いた。細胞治療は成功確率を大きく割り引き、近い将来の確定的な売上としては扱わない。第1四半期末のネットキャッシュ約7.6億円を加味した結果、160円から235円、中心値195円と試算した。

ROIC法では、黒字化後の正常化NOPATを5.5億円から8.0億円、正常化ROICを11%から14%、WACC10%、長期成長率2%とした。成長に必要な再投資をROICから逆算して企業価値を求め、ネットキャッシュを加えた結果、150円から220円、中心値180円となった。現時点の実績ROICは赤字の影響でマイナスであり、その値をそのまま評価に使う意味は乏しい。評価の焦点は、バイオシミラーが研究開発投資を負担した後でも資本コストを上回る利益を作れるかである。

三法のレンジを合わせると145円から235円、中心値の中央値は180円である。現在株価163円は中央値を約9%下回る。下限との距離は小さいため、バリュエーションだけで強い上昇を主張する水準ではない。一方、DCFとROICの上限はSQ-SHEDの治験進展や新規バイオシミラーの具体化を保守的にしか織り込んでいない。今後、国内治験開始や米国IND申請、外部資金調達条件が具体化すれば、上限側の妥当性が高まる。

資本効率の改善では、営業利益の黒字化だけでなく、運転資金と将来の設備負担にも注意したい。バイオシミラーは前渡金や仕掛品を伴うため、売上が伸びても製造計画によってキャッシュが先に必要になる。第1四半期末の前渡金は13.42億円、仕掛品は4.14億円であり、両者を合わせると17.56億円に達する。支払条件の変更で資金効率を改善してきた経緯を踏まえると、今後のROIC改善には粗利率だけでなく、製造ロット、納期、前渡金、在庫の管理が重要になる。また、国内製造施設は供給安定性と原価競争力を高める一方、事業全体として新たな投下資本を必要とする。施設の稼働率、受託品目数、合弁会社における資金負担が十分な収益につながるかを確認する必要がある。つまり、同社が資本コストを上回る企業へ移行する条件は、既上市品の価格と原価の改善、新規品の拡大、運転資金効率、国内製造施設の採算を同時に整えることである。

手法 主要前提 適正株価レンジ 中心値
PBR BPS32.4円、適正PBR4.5~6.0倍 146~194円 170円
DCF WACC9.5~11.0%、永久成長率1.0%、段階的FCF改善 160~235円 195円
ROIC 正常化NOPAT5.5~8.0億円、ROIC11~14%、WACC10% 150~220円 180円
三法総合 各手法のレンジと中心値を比較 145~235円 中央値180円

出所:当社試算。数値は将来の株価を保証するものではない。

図4 PBR・DCF・ROIC三法による適正株価レンジ

出所:当社試算。

7. 中長期の成長シナリオとリスク:中期的な企業価値創出に向けて

中長期で最も望ましいシナリオは、今後1年から2年で既上市バイオシミラーが安定粗利を確保し、その後中期的な時間軸で新規バイオシミラーと国内製造が次の収益源を作り、そのキャッシュと外部パートナー資金を使いながらSQ-SHEDが国内外の企業治験へ進む形である。この場合、同社は赤字の創薬企業ではなく、既存収益を持つバイオ医薬品開発・製造企業として評価される。株式価値は現在利益だけでなく、将来の細胞治療価値を加えた形に変わる可能性がある。

1年から2年の時間軸では、営業黒字の定着が最も重要である。2027年3月期の営業利益1億円から6億円を達成し、2028年3月期にも黒字を継続できれば、過去のように赤字と資金調達を繰り返す企業という評価は後退する。特に粗利率30%台を維持しながら研究開発費を増やせれば、既存事業の収益力が証明される。

中期的な時間軸では、新規バイオシミラーの開発段階、国内製造施設の稼働、SQ-SHEDの臨床段階が企業価値を決める。新規バイオシミラーが臨床開発や商用化準備へ進み、国内製造施設が受注を獲得すれば、既存4品の成熟を補う。SQ-SHEDが国内企業治験を進め、米国でもIND申請に向けた準備が進み、臨床開発が次の段階へ移行すれば、現在の時価総額に対するパイプライン価値の比重は大きくなる。

下振れシナリオは、GBS-007の数量減少が想定以上に大きく、価格改定と原価低減でも粗利を守れない場合である。研究開発費が増えるため、既存事業の粗利が弱ければ連結営業赤字へ戻る可能性がある。また、国内製造施設の立上げ遅延、追加資金負担、SQ-SHEDの治験申請遅延、臨床データの不確実性もある。残存新株予約権や将来の大型臨床費用が再び株式調達につながる可能性も完全には消えていない。

従って投資家は、材料の数ではなく、利益、資金、臨床の三点が同時に改善しているかを見る必要がある。同社の魅力は研究テーマの多さではなく、バイオシミラーの収益基盤が細胞治療の価値形成を支えられる構造にある。今回の第1四半期は、その構造が機能し始めたことを示す最初の実績として位置づけたい。

次回以降の決算で確認すべき項目

確認項目 見るべき数値・進捗 評価が上がる条件 警戒する条件
粗利率 四半期粗利率、製造原価 30%台を維持、改善策が継続 20%台前半へ再低下
営業黒字 営業利益、R&D費 R&D増加後も黒字 費用増だけで赤字化
GBS-007 納品量、競争影響 数量減が限定、利益を維持 想定以上の数量・粗利低下
新規BS 細胞株、契約、開発対価 候補品追加、具体的提携 開発停滞
国内製造 建設、承認、資金負担 予定通りの建設・受注 遅延、追加資金負担
SQ-SHED国内 最終解析、治験届 治験開始時期が具体化 申請遅延
SQ-SHED米国 IND申請、新会社、資金調達 外部資金で開発進展 自社負担の拡大
希薄化 第23回新株予約権 早期消化・追加発行なし 大型の追加株式調達

出所:当社整理。

8. 会社の沿革・経営陣・事業モデル

同社は2001年3月、北海道大学遺伝子病制御研究所の研究成果を診断薬・治療薬へつなげることを目的に、株式会社ジーンテクノサイエンスとして札幌市で設立された。2002年にバイオシミラー事業への参入を検討し、2007年に富士製薬工業とフィルグラスチムの共同開発契約を締結した。2012年にはフィルグラスチム・バイオシミラーが承認され、同年に東証マザーズへ上場した。

その後、ダルベポエチンアルファ、ラニビズマブ、ペグフィルグラスチムと上市品を増やし、バイオシミラーの開発会社から上市後の原薬・製剤供給を担う企業へ収益モデルを拡張した。2019年にセルテクノロジーを完全子会社化し、2020年には日本再生医療を完全子会社化するなど、再生医療分野への展開を進めた。2021年7月には社名をキッズウェル・バイオへ変更し、子どもと家族の医療を企業理念の中心に置いた。

2024年4月には細胞治療事業を担うS-Quatreを設立し、SQ-SHEDの事業化を明確な成長軸とした。2025年から2026年にかけて、持田製薬との脳性麻痺共同事業化、Treehillとの米国開発体制、新規バイオシミラー共同開発、Alfenax Biologics設立、国内製造施設建設を相次いで進めている。沿革を通じてみると、同社は創薬研究のみを行う会社から、バイオシミラーの開発・供給、製造基盤、細胞治療までを外部パートナーと組み合わせて構築する会社へ変化している。

主な出来事 企業価値形成上の意味
2001 ジーンテクノサイエンス設立 創薬研究を開始
2007 富士製薬工業とフィルグラスチム共同開発 バイオシミラー事業を本格化
2012 GBS-001承認、東証マザーズ上場 上市実績と資本市場アクセスを獲得
2019~2020 再生医療関連会社を子会社化 細胞治療への事業領域拡張
2021 キッズウェル・バイオへ社名変更 小児・家族医療を軸に再定義
2024 S-Quatre設立 SQ-SHED事業を独立推進
2025~2026 持田製薬、Treehill、Alfenax等の提携進展 臨床・製造・資金を外部連携で拡張

出所:キッズウェル・バイオ会社情報、会社IR資料。

経営陣:次の成長段階を担う3名取締役会

2026年6月の定時株主総会では、意思決定の迅速化と実効性向上を目的に取締役を4名から3名へ減員した。現在の取締役は、代表取締役社長の紅林伸也氏、社外取締役の栄木憲和氏、西岡佐知子氏である。3名中2名が独立社外取締役であり、取締役会は小規模である。研究開発型企業では意思決定速度が重要である一方、経営陣が少人数になるほど社長への依存度も高まるため、執行役員層との役割分担が重要になる。

紅林社長はゴールドマン・サックス証券、モルガン・スタンレー証券、科学技術振興機構を経て再生医療企業へ移り、2019年に同社へ入社した。金融と事業開発、再生医療の経験を併せ持つことが特徴である。2023年に代表取締役社長に就任し、2026年5月からS-Quatreの代表取締役も兼ねる。細胞治療の資金調達と海外提携が企業価値を左右する現局面では、金融・提携経験は経営上の強みになり得る。

栄木氏はノバルティスファーマの前身企業、バイエル薬品などで製薬事業と製造、経営企画に携わり、バイエル薬品代表取締役社長・会長を歴任した。2018年から同社社外取締役を務め、企業経営と事業開発面で取締役会に助言している。西岡氏はコーポレートコミュニケーション分野を専門とし、プラスナコミュニケーションズ代表取締役、一橋大学非常勤講師を兼任する。2024年から社外取締役となり、情報発信と事業開発の観点から関与する。

投資家の観点では、製薬経営経験を持つ栄木氏と、資本市場・事業開発経験を持つ紅林社長の組み合わせは、現在のバイオシミラー収益改善、資金調達、細胞治療提携に整合する。一方、取締役会が3名と小さいため、臨床開発、製造品質、財務統制を執行役員と監査役会がどのように補完するかは継続して確認したい。

氏名 役職 年齢 取締役在任 保有株式 保有比率 主な経歴・専門性
紅林 伸也 代表取締役社長 49歳 3年 91,000株 約0.18% ゴールドマン・サックス証券、モルガン・スタンレー証券、JST、
再生医療企業を経て2019年入社。2023年社長。S-Quatre代表取締役。
栄木 憲和 社外取締役 78歳 8年 0株 0% 製薬企業で経営企画・製造を経験。バイエル薬品代表取締役社長・会長。
複数の製薬・バイオ企業で社外取締役を務める。
西岡 佐知子 社外取締役 62歳 2年 0株 0% コーポレートコミュニケーション分野。
プラスナコミュニケーションズ代表取締役、一橋大学非常勤講師。

出所:2026年定時株主総会招集通知、FactSet People。保有株式は招集通知の記載を優先し、比率は発行済株式数50.583百万株に対する概算。FactSetでは紅林氏87,000株と記録されているが、招集通知の91,000株を最新値として採用。

事業モデルとキャッシュフロー:利益成長を株主価値へつなげる条件

同社を分析する際には、一般的な製薬会社の売上高と営業利益だけでは事業の変化を捉えにくい。バイオシミラーでは、原薬等の製造を海外CDMOへ発注してから実際の納品・売上計上までに時間差があり、その間に前渡金、仕掛品、為替レートが変動する。2027年3月期第1四半期末では前渡金が13.42億円と前期末11.14億円から増え、仕掛品も4.14億円へ増加した。これは直ちに悪化を示すものではなく、将来納品に向けた製造進捗を反映する面がある。一方、製造遅延や需要変化が起きれば運転資金が滞留する可能性があるため、現預金だけで財務余力を判断しないことが重要である。

営業キャッシュフローも年度ごとの振れが大きい。2025年3月期は9.37億円のプラスとなった一方、2026年3月期は約11億円のマイナスとなった。売上の増減だけでなく、製造前払い、在庫、売掛金の回収タイミングがキャッシュフローを左右するためである。今後、供給価格改定や支払条件見直し、製造原価低減によって利益率が改善しても、運転資金が増え続ければ株主価値への寄与は限定される。従って、営業利益と同時に営業キャッシュフロー、前渡金、仕掛品、売掛金の動きを確認したい。

一方、細胞治療では研究開発費が先行し、短期的には営業キャッシュフローを押し下げる。ここで重要なのが外部資金と提携先の役割である。持田製薬との共同事業化、Treehillとの米国新会社、AMED採択、ニプロとの製造開発など、同社は開発を単独で抱え込まない体制を作っている。これらの契約条件が良ければ、開発進捗を維持しながら自社資金負担を抑えられる。逆に、臨床段階が進むほど費用は増えるため、外部資金が十分でなければ再び株式調達が必要になる。したがって提携ニュースは名称だけで評価せず、開発費負担、マイルストーン収入、製造収益、将来の販売利益の分配まで確認する必要がある。

企業価値形成の観点では、バイオシミラー事業が営業利益とキャッシュを生み、細胞治療が将来価値を作るという二層構造が基本である。ただし、今後は国内製造・CDMOがその間をつなぐ第三の役割を持つ可能性がある。自社共同開発品の商用製造に加え、CDMOとして外部案件を受託できれば、研究開発収益とは異なる新たな製造受託収益源が加わる可能性がある。これが実現すれば、同社の評価はバイオシミラー供給会社と創薬会社の組み合わせから、開発・製造・細胞治療を持つバイオ医薬品プラットフォーム企業へ近づく。ただし、その評価には製造施設の稼働実績と採算性の確認が必要であり、現時点で先取りしすぎるべきではない。

9. 今後の同社株式への投資の焦点

今後の同社株式への投資の焦点は、四半期ごとの利益変動ではなく、企業構造の転換が複数年度にわたり続くかに置きたい。今回の第1四半期で、前回レポートが求めた営業黒字と粗利改善は数字として確認された。さらに、転換社債の全額転換によって潜在希薄化も大きく後退した。従って、投資判断の根拠は前回の期待から、営業利益の実績と資金調達構造の改善へ移った。ここは重要な前進である。

これからの焦点は、営業黒字が研究開発費の少ない四半期だけの現象ではないことを確認すること、GBS-007競争影響を数量と利益の双方で把握すること、SQ-SHEDが研究成果から企業治験へ進むことである。特に、国内治験届、米国IND申請、Treehill新会社の資金調達条件のいずれかが具体化すれば、細胞治療価値を株価評価へ反映しやすくなる。

現在株価163円は三法評価の中央値180円を下回るが、下限145円にも近い。したがって、単純な低PBRや低PERを理由に評価する銘柄ではない。収益構造改善の再現性と臨床開発の具体化を追いながら中長期で保有する対象と位置づける。2027年3月期営業黒字を達成し、2028年3月期も黒字を維持できれば、1年から2年の株価評価は改善しやすい。中期的には、新規バイオシミラー、国内製造、SQ-SHEDの臨床進展が企業価値の上限を決める。

前回の強気判断は維持する。今回はそれをさらに強めるというより、強気判断の確度が上がったと表現するのが適切である。GBS-007の競争と研究開発費増加というリスクは残るが、収益、開発、提携、資金調達の各面が同時に改善している。次の決算で粗利率30%台と営業黒字が維持され、SQ-SHEDの治験工程が一段進めば、現在の時価総額82.5億円に対する再評価の根拠はより強くなる。

注記:財務データは、原則としてFactSetの標準化データを基本として参照した。したがって、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益、キャッシュフロー、貸借対照表項目、セグメント関連数値などは、会社公表資料の表示科目、組替え、端数処理、セグメント開示と一部一致しない場合がある。事業別売上高、営業利益、KPI、資本配分方針等については、会社公表資料を優先して確認し、必要に応じてFactSetデータおよび当社試算で補完した。

主要財務データ

単位: 百万円 2022/3 2023/3 2024/3 2025/3 2026/3 2027/3
CE
売上高 1,569 2,776 2,431 5,082 6,590 5,000 -6,000
EBIT(営業利益) -976 -551 -1,336 28 -139 100-600
税引前収益 -550 -656 -1,421 73 -403  
親会社株主帰属利益 -551 -657 -1,422 -21 -414 na
現金・預金 1,161 1,067 2,231 2,995 3,295  
総資産 3,470 3,895 5,086 7,008 6,088  
債務合計 700 1,950 2,575 1,838 2,550  
純有利子負債 -461 883 344 -1,157 -745  
負債総額 1,767 2,661 4,254 5,598 4,434  
株主資本 1,703 1,234 831 1,411 1,654  
営業活動によるキャッシュフロー -1,170 -1,421 -454 937 -1,093  
設備投資額 0 0 0 6 18  
投資活動によるキャッシュフロー 527 -29 0 65 -13  
財務活動によるキャッシュフロー 369 1,356 1,618 -240 1,398  
ROA (%) -14.88 -17.85 -31.67 -0.35 -6.32  
ROE (%) -33.25 -44.78 -137.73 -1.89 -27.02  
EPS (円) -17.9 -20.8 -40.2 -0.5 -8.5 na
BPS (円) 54.2 38.5 21.4 32.2 33.3  
一株当り配当(円) 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
発行済み株式数 (百万株) 31.44 31.90 37.31 40.66 49.58  

出所:Factsetのスタンダード基準による計算を元にオメガインベストメント作成、小数点以下四捨五入。

株価推移

主要株価関連データ

財務データI(四半期ベース)

単位: 百万円 2025/03 2026/3 2027/3
  1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q
[損益計算書]                  
売上高 483 1,267 1,286 2,046 1,721 1,556 1,743 1,571 1,270
前年同期比 950.4% 136.4% 30.6% 136.6% 256.3% 22.8% 35.5% -23.2% -26.2%
売上原価 259 998 748 1,436 1,123 1,160 1,405 1,154 838
売上総利益 224 269 538 610 597 396 337 417 431
粗利率 46.3% 21.2% 41.8% 29.8% 34.7% 25.4% 19.4% 26.6% 34.0%
販管費 383 372 414 444 413 365 468 640 215
EBIT(営業利益) -159 -104 125 166 185 31 -131 -223 217
前年同期比 -65.1% -60.9% 136.8% -124.8% -216.2% -129.6% -205.3% -234.3% 17.3%
EBITマージン -32.9% -8.2% 9.7% 8.1% 10.7% 2.0% -7.5% -14.2% 17.1%
EBITDA -159 -103 125 166 185 31 -131 -223 217
税引前収益 -176 -65 107 207 176 -88 -212 -279 237
当期利益 -177 -65 54 167 157 -97 -203 -271 198
少数株主損益 0 0 0 0 0 0 0 0 0
親会社株主帰属利益 -177 -65 54 167 157 -97 -203 -271 198
前年同期比 -62.5% -79.0% 64.4% -124.7% -188.9% 48.3% -476.5% -262.7% 26.0%
利益率 -36.6% -5.1% 4.2% 8.1% 9.1% -6.2% -11.7% -17.3% 15.6%
                   
[貸借対照表]                  
現金・預金 1,167 1,695 1,318 2,995 2,840 1,542 3,785 3,295 3,234
総資産 4,609 4,646 4,575 7,008 6,579 5,815 6,320 6,088 6,131
債務合計 2,402 2,131 2,034 1,838 1,549 1,134 2,625 2,550 2,475
純有利子負債 1,235 436 715 -1,157 -1,291 -407 -1,160 -745 -759
負債総額 3,895 3,789 3,523 5,598 4,531 3,629 4,394 4,434 4,293
株主資本 714 857 1,052 1,411 2,048 2,186 1,926 1,654 1,837
                   
[収益率 %]                  
ROA -29.48 -22.54 -17.65 -0.35 5.59 5.38 0.44 -6.32 -5.87
ROE -152.15 -91.46 -69.11 -1.89 22.64 18.48 1.60 -27.02 -19.21
[一株当り指標: 円]                  
EPS -4.5 -1.6 1.3 3.8 3.3 -1.9 -4.1 -5.5 4.0
BPS 18.1 21.1 25.9 32.2 43.0 44.1 38.8 33.3 37.0
一株当り配当 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
発行済み株式数 (百万株) 39.41 40.66 40.66 43.88 47.63 49.56 49.58 49.62 49.63

出所:Factsetのスタンダード基準による計算を元にオメガインベストメント作成、小数点以下四捨五入。

財務データII(通期ベース)

単位: 百万円 2017/3 2018/3 2019/3 2020/3 2021/3 2022/3 2023/3 2024/3 2025/3 2026/3
[損益計算書]                    
売上高 1,089 1,060 1,022 1,078 997 1,569 2,776 2,431 5,082 6,590
前年同期比 -6.2% -2.7% -3.6% 5.5% -7.5% 57.5% 76.9% -12.4% 109.0% 29.7%
売上原価 398 423 413 653 120 553 1,251 1,393 3,443 4,843
売上総利益 692 637 609 425 877 1,017 1,525 1,038 1,639 1,747
粗利率 63.5% 60.1% 59.6% 39.4% 88.0% 64.8% 54.9% 42.7% 32.3% 26.5%
販管費 1,876 1,551 1,414 1,586 1,847 1,992 2,076 2,374 1,611 1,886
EBIT(営業利益) -1,184 -913 -806 -1,161 -970 -976 -551 -1,336 28 -139
前年同期比 44.4% -22.9% -11.8% 44.2% -16.5% 0.6% -43.5% 142.4% -102.1% -596.8%
EBITマージン -108.7% -86.2% -78.8% -107.8% -97.3% -62.2% -19.8% -54.9% 0.5% -2.1%
EBITDA -1,184 -913 -805 -1,161 -969 -973 -550 -1,335 29 -138
税引前収益 -1,222 -903 -854 -7,314 -1,000 -550 -656 -1,421 73 -403
当期利益 -1,225 -905 -856 -7,316 -1,001 -551 -657 -1,422 -21 -414
少数株主損益 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
親会社株主帰属利益 -1,225 -905 -856 -7,316 -1,001 -551 -657 -1,422 -21 -414
前年同期比 55.5% -26.1% -5.3% 754.4% -86.3% -45.0% 19.3% 116.3% -98.5% 1858.3%
利益率 -112.4% -85.4% -83.8% -678.9% -100.5% -35.1% -23.7% -58.5% -0.4% -6.3%
                     
[貸借対照表]                    
現金・預金 2,380 1,891 2,009 2,033 1,461 1,161 1,067 2,231 2,995 3,295
総資産 3,706 3,025 3,151 3,592 3,934 3,470 3,895 5,086 7,008 6,088
債務合計 0 0 0 1,225 1,100 700 1,950 2,575 1,838 2,550
純有利子負債 -2,380 -1,891 -2,009 -808 -361 -461 883 344 -1,157 -745
負債総額 206 421 420 2,105 2,324 1,767 2,661 4,254 5,598 4,434
株主資本 3,500 2,604 2,731 1,487 1,610 1,703 1,234 831 1,411 1,654
                     
[キャッシュフロー計算書]                    
営業活動によるキャッシュフロー -1,759 -438 -860 -1,325 -1,267 -1,170 -1,421 -454 937 -1,093
設備投資額 0 0 0 2 3 0 0 0 6 18
投資活動によるキャッシュフロー -150 -50 -0 -137 -22 527 -29 0 65 -13
財務活動によるキャッシュフロー 3,472 0 978 1,222 718 369 1,356 1,618 -240 1,398
                     
[収益率 %]                    
ROA -45.35 -26.88 -27.73 -216.99 -26.61 -14.88 -17.85 -31.67 -0.35 -6.32
ROE -62.74 -29.64 -32.10 -346.86 -64.66 -33.25 -44.78 -137.73 -1.89 -27.02
当期利益率 -112.41 -85.36 -83.81 -678.87 -100.49 -35.10 -23.68 -58.49 -0.42 -6.28
資産回転率 0.40 0.31 0.33 0.32 0.26 0.42 0.75 0.54 0.84 1.01
財務レバレッジ 1.38 1.10 1.16 1.60 2.43 2.23 2.51 4.35 5.39 4.27
[一株当り指標: 円]                    
EPS -68.5 -47.3 -43.8 -264.7 -34.8 -17.9 -20.8 -40.2 -0.5 -8.5
BPS 182.9 136.1 134.3 53.8 54.4 54.2 38.5 21.4 32.2 33.3
一株当り配当 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
発行済み株式数 (百万株) 18.74 19.14 19.68 27.65 29.06 31.44 31.90 37.31 40.66 49.58

出所:Factsetのスタンダード基準による計算を元にオメガインベストメント作成、小数点以下四捨五入。