時価総額:1兆2,551億円
株価および前提は2026年7月17日時点。時価総額は発行済株式数205,288,338株を用いて算出。
| 株価 | 予想EPS | 予想PER | 実績BPS |
| 6,114円 | 326.6円 | 18.7倍 | 1,961円 |
| 実績PBR | 予想ROE | 予想配当 | 予想配当利回り |
| 3.12倍 | 17.2% | 132.5円 | 2.82.175% |
Take Profit and Reassess。関電工は、データセンター、半導体工場、大型再開発、送配電網増強を背景に受注と利益率が同時に改善し、低収益の電気工事会社から高い資本利益率を生む総合設備企業へ転換した。しかし、現在株価にはEPS、ROE、ROICの上昇に加え、AI関連設備投資への期待とバリュエーションの再評価が相当程度織り込まれている。PBR、DCF、ROICの三法による適正株価中央値は6,000円で現在株価とほぼ同水準であり、既保有者には利益確定を推奨する。今後は、高い工事採算の持続、利益予想の追加的な上方修正、ならびに次期中期経営計画における自社株買い・還元強化を確認したうえで投資判断を再評価すべき局面である。
建築設備と社会インフラを両輪に、AI・半導体投資と電力網更新の需要を取り込む総合設備企業
関電工は東京電力グループを主要株主とする総合設備工事会社であり、オフィス、工場、データセンター、半導体工場などの電気設備・空調衛生設備を担う建築設備事業と、配電、送電、情報通信、再生可能エネルギー関連工事などを担う社会インフラ事業を展開する。主力の屋内線・環境設備工事では、首都圏の大型再開発に加え、高度な電源・空調・施工管理能力を必要とするデータセンターや半導体関連施設で施工実績を持つ。FY3/2026は完成工事高7,420億円、営業利益831億円となり、営業利益率は11.2%へ上昇した。FY3/2027は完成工事高7,800億円、営業利益900億円を計画し、旺盛な民間設備投資と送配電網増強を背景に4期連続の最高益更新を見込む。
事業別売上高比率%(営業利益率%):設備工事業 98.6%(11.0%)、その他の事業 1.4%(23.6%)(2026年3月期)
受注好調で最高益更新続。次期中計は資本政策見直しの期待も。
関電工は東京電力系の電気設備工事大手。建築物の電気設備工事や空調・衛生設備工事などを行う「屋内線・環境設備工事」が主力で、売上高の過半を占める。電気工事業界の中でも、半導体関連で豊富な施工実績を持つ。
2027年3月期業績は売上高7800億円(前期比5.1%増)、営業利益900億円(同8.3%増)と4期連続で過去最高益を更新する見通し。前期末の単体受注高は6736億円(前の期比16.2%増)と潤沢で、さらに今期の単体受注高は8090億円(同10.6%増)を計画するなど受注見通しは良好。大型再開発やデータセンター、半導体工場などの受注が見込まれ、豊富な手持ち工事を支えに当面は業績拡大基調が継続するとみられる。
また、大株主である東京電力パワーグリッドが今年2月に同社の株式を売り出し、持株比率が46.2%(2025年9月)→33.4%(2026年3月末現在)へと低下した。これにより自社株買いを含めた資本政策が行いやすくなり、次期中計が始まる2028年3月期以降の株主還元方針が注目される。総還元性向が同業他社比で低く、現行の「配当性向40%程度」からの引き上げ余地は大きい。

収益力の構造的改善は認められるが、AI・データセンター期待を含む再評価は現在株価にほぼ反映された
2024年以降の業績急変は、売上高の増加以上に工事採算が改善したことによる。FY3/2024からFY3/2026にかけて営業利益率は6.8%から11.2%、ROEは8.6%から16.8%、ROICは8.4%から16.4%へ上昇した。粗利益率の改善、受注選別、価格転嫁、施工・原価管理の強化、データセンターや半導体工場を含む高付加価値案件の増加が同時に寄与している。FY3/2026の営業利益は前期比42.5%増、純利益は49.9%増となり、FY3/2027も営業利益900億円への増益を計画する。これは単なる売上数量の増加ではなく、限られた施工力を高採算案件へ配分する能力が向上した結果と評価できる。
それまで約10年間株価が低迷した理由は、低い資本利益率と資本政策の弱さにあった。2010年代前半のROEは1~5%にとどまり、その後もFY3/2023までは7~9%程度で伸び悩んだ。営業利益率も長期間5~6%前後で推移し、豊富な資産や安定した受注が十分な株主価値へ転換されていなかった。加えて東京電力グループとの強い資本関係、限定的な株主還元、成熟した国内工事会社という印象が、PBR1倍前後の評価を合理化していた。2024年以降の株価上昇は、従来の過小評価が単に修正されたのではなく、利益成長とマルチプル拡大が同時に進んだ二重の再評価である。
現在の好業績には一時的な循環要因と構造的な基盤強化の双方が含まれる。大型再開発や半導体工場の工期集中、資材価格上昇を反映した契約価格、供給制約下での受注選別は、設備投資サイクルの一巡とともに正常化し得る。一方、AI普及に伴うデータセンター電力需要、半導体生産能力の国内回帰、送配電網の増強、再生可能エネルギー接続、老朽インフラ更新、技術者不足による大手への受注集中は中期的な需要を支える。したがって直近の40~50%増益が続くとは考えにくいが、基礎的な利益率と資本利益率は過去10年より高い水準へ切り上がったとみるべきである。
問題は、構造的改善の存在ではなく、その価値が現在株価にどこまで織り込まれたかである。株価6,114円は予想PER18.7倍、実績PBR3.12倍であり、過去の関電工に付された評価を大きく上回る。予想ROE17.2%が持続するならPBR3倍台は説明可能だが、ROEが12~13%へ正常化すれば現在の評価を維持することは難しい。株価に織り込まれた長期EPS成長率は、配当性向40.6%、株主資本コスト8.0~8.5%を前提に5.8~6.3%と推計される。これはFY3/2021からFY3/2026までのEPS CAGR25.9%を大幅に下回るが、FY3/2027の会社予想EPSの増加率が一桁台に鈍化することを踏まえれば、市場は急成長の継続ではなく、高い利益水準の維持と緩やかな成長を評価している。
AI・データセンター関連需要への期待は、既にバリュエーション拡大の重要な構成要素となっている。関電工はAIそのものを販売する企業ではなく、電力・空調・通信設備を提供する周辺インフラ企業であるため、需要の可視性は比較的高い。しかし、AI投資計画の延期、電力接続制約、建設コスト上昇、顧客の投資採算悪化が生じれば、案件の着工時期や採算が変動する。現在株価で新規投資を行うことは、AI設備投資が続くという方向性だけでなく、関電工が現在の高い工事採算を維持できることにも同時に賭けることになる。
東京電力ホールディングスが34.24%を保有する株主構造は、事業価値には安定性を与える一方、株式価値には複雑な影響を及ぼす。東京電力グループとの関係は送配電設備工事の安定した受注、技術蓄積、信用力を支え、関電工の競争優位の一部である。他方、東京電力HD自身がPER4倍前後、PBR0.3倍前後で評価されている背景には、規制、賠償、資本配分、ガバナンスへの強い警戒がある。親会社色が強い限り、一般株主との利益相反や資本政策の制約に対するディスカウントは残る。持分が46%台から34%台へ低下したことは、流動性の向上と独立した資本政策の余地を広げる点でプラスであり、今後さらに取引関係を維持しながら資本関係を希薄化できるかが再評価の条件となる。
投資判断は、企業の質ではなく現在価格に対する期待収益率から導くべきである。PBR、DCF、ROICの三法による適正株価中央値は6,000円で、現在株価6,114円はほぼフェアバリューにある。収益力の改善は評価に値するが、安全余地は乏しく、追加的な上値は利益予想の上方修正、ROE15%以上の定着、次期中期経営計画における還元強化に依存する。既保有者は利益を確定し、現在の高収益が循環的なピークではないことと、東京電力の持分低下が実質的な資本政策の変化へつながることを確認してから再評価するのが合理的である。
Valuation
三法の中央値は6,000円で、現在株価は業績改善と再評価を概ね織り込む
PBR法:持続可能ROE15~17%、株主資本コスト8~9%、長期成長率4~6%を前提とし、適正株価レンジは5,100~6,860円、中央値は5,980円。
DCF法:正常化FCF500~650億円、WACC7~8%、永久成長率1.5~2.0%を前提とし、適正株価レンジは5,300~7,200円、中央値は6,250円。
ROIC法:正常化ROIC14~16%、WACC7~8%、成長率3~4%を前提とし、適正株価レンジは5,200~7,000円、中央値は6,000円。
総合評価:三法を均等に参照した適正株価レンジは5,100~7,200円、中央値は6,000円。
市場期待:予想PER18.7倍、予想配当性向40.6%、株主資本コスト8.0~8.5%を前提とすると、株価に織り込まれた長期EPS成長率は5.8~6.3%である。FY3/2021からFY3/2026までのEPS CAGR25.9%を大幅に下回るものの、直近の増益率が正常化することは既に市場の前提となっている。現在株価は過度な楽観を全面的に織り込む水準ではないが、三法の中央値に対する上値余地がなく、新規投資を正当化する安全余地は乏しい。
株主分布
安定した事業基盤を支える東京電力との関係は、資本政策と少数株主利益の面では評価の制約となる
FactSet集計では東京電力ホールディングスが34.24%を保有し、関電工の自己株式3.06%、従業員持株会2.64%が続く。三井住友トラスト・アセットマネジメント、アモーヴァ・アセットマネジメント、野村アセットマネジメント、Vanguard、Capital Research、BlackRockなど国内外の機関投資家も保有するが、東京電力の持分は依然として支配的である。安定株主の存在は長期投資や送配電事業との連携を支える一方、一般株主による外部規律、資本配分の独立性、買収可能性を抑える。東京電力側の持分低下に伴う流動性改善と機関投資家層の拡大はプラスであり、今後の自社株買い、政策保有株式縮減、追加売出しの扱いが株式価値を左右する。
Financials and Valuations
FY3/2026は完成工事高7,420億円、営業利益831億円、親会社株主に帰属する当期純利益635億円となり、営業利益率は11.2%、ROEは16.8%、ROICは16.4%へ上昇した。FY3/2027会社計画は完成工事高7,800億円、営業利益900億円、純利益650億円である。単体新規受注高は8,090億円、FY3/2026末の次期繰越工事高は6,737億円で、短期的な収益可視性は高い。一方、FY3/2026のFCFは運転資本改善の影響を含め過去の水準から大きく上振れているため、評価上は単年度実績をそのまま恒久化せず、正常化FCFを用いる必要がある。

Price

PBR (LTM)

PER (LTM)

ROE (LTM)

EPS (LTM)

BPS (LTM)
